第5話「病に立ち向かう知恵」

 冬の厳しい寒さが訪れた頃、グリーンウィンド村に不吉な影が忍び寄っていた。


「また新たな患者が出たわ」


 オリヴィア・ハーブウィズダム薬師が、深刻な表情で村の集会所で報告した。


「高熱に咳、そして体中の発疹。今までに見たことのない症状よ」


 村人たちの間で不安な声が広がる。すでに何人もの村人が倒れ、通常の治療法では効果が見られなかった。


 その時、いつものように綺羅が前に進み出た。


「私に調べさせてください」


 綺羅の声に、会場が静まり返る。


「この病気、どうやら感染症のようです。でも、適切な対策を取れば、必ず克服できるはずです」


 村長のアルベルトは少し考えてから、頷いた。


「わかった。綺羅、君に任せよう」


 綺羅は早速、患者たちの症状を詳しく観察し始めた。そして、前世の医学知識を総動員して、対策を考え始めた。


「まず、清潔さが重要です。手をよく洗い、患者の世話をする人は口と鼻を覆うようにしましょう」


 綺羅は村人たちに衛生管理の重要性を説明した。また、ハーブを使った簡易的な消毒液の作り方も教えた。


「そして、これらのハーブを煎じて飲むと、症状が和らぐはずです」


 オリヴィアと協力して、効果的な薬草の組み合わせを見出した。


 しかし、それでも新たな患者は増え続けた。村全体が不安に包まれる中、綺羅は昼夜を問わず対策を練り続けた。


 ある夜、綺羅は疲れ果てて眠り込んでしまった。そんな彼女の元に、エリーゼが心配そうに駆け寄ってきた。


「綺羅、無理しすぎよ。あなたまで倒れたら、村はどうなってしまうの」


 綺羅は弱々しく笑った。


「大丈夫、エリーゼ。私には、みんなを守る使命があるから」


 そう言いながらも、綺羅の目には涙が浮かんでいた。


「でも、正直怖いの。もし、私の知識だけじゃ足りなかったら……」


 エリーゼは綺羅の手をしっかりと握った。


「大丈夫よ、綺羅。あなたは一人じゃない。私たちみんながついてるわ」


 その言葉に力をもらった綺羅は、新たな発見をする。患者の症状と、村の水源の場所に相関関係があったのだ。


「わかったわ! 感染源は水かもしれない」


 綺羅の指示で、村人たちは協力して水源の浄化に取り組んだ。まず、綺羅は村の水源を詳しく調査し、汚染の原因を特定した。それは、上流の鉱山から流れ出る重金属を含んだ水だった。


 この問題に対処するため、綺羅は依然作った濾過機をさらに改良した多段階の濾過システムを設計した。第一段階では、水源の上流に沈殿池を設け、大きな不純物を沈降させる。次に、水は砂利と砂の層を通過させ、より小さな固形物を取り除く。


 さらに、水は活性炭の層を通る。活性炭は、その多孔質な構造により、水中の重金属イオンや有機化合物を吸着する。この過程で、水中の有害物質が効果的に除去される。


 最後に、水は細かな砂とゼオライトの層を通過する。ゼオライトは、天然の鉱物で、イオン交換の性質を持つ。これにより、水中に残る重金属イオンが捕捉され、安全な水が得られる。


 この濾過システムは、重力を利用して水を流すため、特別なエネルギー源を必要としない。また、各濾過層の材料は、村の周辺で入手可能なものを使用している。濾材が飽和したら、新しい材料と交換することで、持続的に水を浄化することができる。


 村人たちは、綺羅の指導の下、改良型濾過システムを設置し、定期的にメンテナンスを行った。そして、浄化された水を村の中央の井戸に供給するようにした。


 一方で、綺羅は薬草療法にも着目した。彼女は、村の周辺に生える薬草を調査し、その効能を研究した。そして、抗菌作用のあるハーブを見つけ、それを煎じて患者に飲ませるようにした。


 また、村人たちに衛生管理の重要性を説いた。手洗いの励行、食品の衛生的な取り扱い、ごみの適切な処理など、基本的な衛生習慣を村全体で実践するよう呼びかけた。


 こうした総合的な取り組みの結果、村での感染症の流行は徐々に収束に向かっていった。発症者の数は日を追うごとに減少し、村人たちの健康状態は目に見えて改善されていった。


 そして一月後、ついに村から病が消えた。


「やりました! 私たち、勝ったんです!」


 綺羅の声に、村中から歓声が上がった。オリヴィアは涙を流しながら綺羅を抱きしめた。


「ありがとう、綺羅。あなたは村の英雄よ」


 その夜、村は祝賀会で盛り上がった。綺羅はガレスと星空の下で話をしていた。


「お前は本当にすごいな、綺羅。命を救う知恵を持っている」


 ガレスが感心したように言う。綺羅は少し照れくさそうに笑った。


「いいえ、これも村のみんなの力があってこそです。それに……」


 綺羅は夜空を見上げた。


「私には、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるんです。この世界の不思議を、もっと理解したい」


 ガレスは綺羅の決意に満ちた表情を見て、静かに頷いた。


「ああ、お前ならきっとできる。これからも村のみんなで応援するよ」


 満天の星空の下、二人の影が寄り添う。グリーンウィンド村の未来は、試練を乗り越えて、さらに輝きを増していった。

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