星夜
「はぁ……はぁ……はぁ……」
どれだけ、どれだけ戦った。
どれだけの、魔を殺した?
「こぷっ」
もはや、それすらわからない。
ただ、俺が築き上げた魔の死骸の山の上に立ち尽くしていた。
「まさか、百を超える王の魔に。万を超える一級の魔を狩り尽くすとは思わなかった」
確実に、大量の魔をやった。
ただ、それで負った傷も多かった。
「うぐっ」
俺の体は既にボロボロ。
見下ろすだけで血まみれとなっている自分の体が見えるし、既に右足の感覚がなければ片目もほとんど見えない。
口の中は嫌な血の感触で、鼻はもう血の匂いを嗅ぎ過ぎてバグってしまった。
「どう、だァ?お前の目的は一旦、ご破算だろぉ?」
そんな中で、唯一。
残った敵である荒木の方に視線を向け、俺は不敵な笑みを浮かべる。
「ほとんど聞こえてねぇだろ、耳。ここで俺が答えたところで意味はないだろうよ」
「アン?」
「が、答えてやろうか。あの餓鬼がここまで頑張ったことを称えてな」
ヤバい。
「確かに、俺の目的は一旦おしまいさ。ここまで削れてしまったら動けないな。ただ、また一年後にやるだけだ。少し、寿命が延びたにすぎねぇ。それでも、まぁ、頑張った方だがな」
耳もなんかバグっているのか、目の前で必死に口をパクパクさせている荒木の言葉が聞こえてこない。
「楽に殺させてやる。俺も結構な時間があったんでな。お前を一瞬で殺すには十分すぎる術が出来たよ」
ただ、それでも理解できる。
荒木の手元に灯る巨大な光が、俺という存在を焼き切ると。
「アハハハ」
笑う。
傑作だった俺の人生はこれで閉幕だ。
十分、楽しめた。
「地獄に落ちろ。弟殺し」
「地獄なぞ生ぬるい」
俺の笑みと共に告げた言葉に、荒木が口を開いて何かを返す。
「神殺し」
そして、光が放たれた。
俺はゆっくりと瞳を閉じる。
これで自分の人生は終わり───。
「ァァァァァァァアアアアアアアアアアアア」
───その、はずだった。
「えっ……?」
だが、来なかった。
俺の体を消し去るはずだったはずの光によるダメージは自分に訪れず、代わりに聞こえてくるのは星歌の悲鳴だった。
「……うぅ」
閉じていた瞳を開けた俺は、僕は驚愕する。
「……なん、でぇ?」
自分の瞳に映るのは、己を襲うはずだった光から僕を守るようにその場に立っている聖歌だった。
そんな彼女を前にして、僕は困惑の声を上げる。
「言ったじゃないっ!貴方はっ!私を幸せにしてくれるって!それなのに、何で、……何でこんなところで死にかけているのよっ!」
呆然としている僕へと星歌は泣きながら抱き着いてくる。
「生きて、いれば……」
何を、何を、言って……?生きていれば、幸せになる。
そんなことを僕に言ったのは星歌じゃないか。
「嫌よっ!貴方が死ぬなら私も死ぬんだからっ!」
なのに、星歌は僕を抱き着いて離さない。
「誰かは知らないけどねっ!やるなら、私ごとやりなさいっ!盛大に自爆して、お前も巻き込んでやるんだからっ!」
あぁ、駄目だ。
星歌は、星歌は、星歌は幸せにするんだ。
「あぁぁぁぁ」
「……っ、申夜?」
駄目だ。僕は、星歌を守らないと。
「もう、いいわ。そんな傷だらけで、暴れないで……ほら、大人しく」
「嫌だっ!生きていれば、幸せになるんだ。だから、星歌を僕も、幸せに」
僕は藻掻く。
そして、星歌の傍らに置かれていた一振りの矛を見つける。
「大丈夫よ。私はもう、幸せだから」
戦うための武器。
それを見つけて、手を伸ばし始めた僕の手を星歌は止め、そのまま自分は幸せなどと笑顔で告げてくる。
「駄目だ。少しでも、悲しみのあるその笑顔じゃ認めない」
まだ、星歌は引きずっている。
なら、駄目だ。
「なんで、端から諦めているんだよぉ……っ!」
「……っ!?」
僕は矛を握り、ゆっくりと持ち上げる。
「大丈夫。僕が星歌を守っ」
「駄目っ」
これで、必ず守って見せる───そんな、そんなことを告げようとする僕の口を星歌は人差し指で制してくる。
「私は守られてばかりじゃないわ。私こそが、貴方を守るのよ……えぇ、そうね。最初から、諦めているなんて私らしくなかったわね。死にかけの貴方を見て戸惑っちゃった」
そして、ボロボロな僕の体を背後から支えるような形で星歌は抱き着いてくる。
「大丈夫なの……?星歌は。さっきの光を受けていたけど」
「そこまでのダメージじゃなかったわ。何かを書き混ざられるおうな感覚はあったけどね……ただ、死ぬようなものじゃないわ」
「あぁ……よかった」
僕は星歌から体を支えられ、己の手に矛を握りながら、安堵の声を漏らす。
「……待てや、おい」
そして、僕は知覚する。
「心地いい」
つい、先まで己の死を叫んでいた直感は静まり返るばかりか、僕は万能感までもを感じていた。
自分の後ろに星歌がいるだけでここまで違うのか。
「んで、それがここにある。申夜の、神格を支えるそいつがよぉ」
「相変わらず、何言っているかわからないな」
星歌の声はずいぶんと明瞭に聞こえるが、荒木の方は聞こえないな。
「支えるわ」
そして、そんな僕を支えてくれるかのように星歌がそっと自分の右腕に優し気な掌を添えてくれる。
「っざけんなァっ!!!」
再度、荒木の手元に灯る先ほどよりかは幾分か小さな光。
「女の子を後ろにして、負けるわけにはいかないよね」
そして、それが自分たちに向かって放たれると共に、僕は星歌に支えられながら矛をその場で振り下ろす。
その瞬間だった。
世界は光に包まれ、矛より昇りし、神々しい焔と雷が荒木を貫き、そのまま天へと昇ったのは。
「どうして───アァ、神の子に、挑んだのがァ───」
最後に。
「神の子?何のことを言っているの?僕は僕だよ」
ようやく聞こえるようになった荒木の言葉に僕が疑問の声をあげた瞬間。
「わふっ」
僕の体から力が抜けていき、自分の体が崩れていく。
「っとと」
そんな僕の体を、星歌が支えてくれる。
「少し、寝かせるわね」
そして、そのまま流れるようにして僕の体をその場に横たわらせてくれる。
そんな僕の枕となったのは星歌の柔らかい膝だった。
「あー、疲れた」
「……もう、何を無理しているのよ。それに、さっきの男は?」
「説明するのも今はちょっと面倒かな」
本当に、本当に疲れた。
でも、死ぬつもりでやってきて、それで生きているなら儲けものだけど。
「ふー」
僕はゆっくりと息を吐き、自身の体を蝕む傷を癒そうとする。
「何で、死ぬような真似をするの?」
そんな僕へと星歌が疑問の声を向けてくる。
「んっー。僕以外じゃ、無理かなっ?って思ったから。僕がここで命を張るのが一番被害の少なくて、確実な方法だと思ったんだ」
「……っ、もう、死にたかったの?」
「いや、そんなことはないよ。もっと星歌といたかったし、たこ焼きだった食べたかった」
「ならっ」
「でも、星歌に生きていてほしかったから」
僕は星歌の瞳を真っすぐに見つめながら告げる。
星歌を守りたかった。
自分が命を張った理由なんてこれに尽きる。
「なら、もう命は張らないで……貴方が死んだら、私も死ぬから」
「ふへへ」
「何よ?笑いごとじゃないのよっ!」
「いや、ちょっと、そこまで星歌が僕のことを大切に思っていることがうれしくて」
「あったりまえじゃない……一番大事よ。だから、死なないで」
「うん、わかった」
そこまで言われた僕だって中々死ねないよね。
「それに、僕はまだおっぱいを揉めていないしね」
生き延びたのなら、やっぱり。女のおっぱいを揉みたい。
「なら、今……揉んでみる?」
なんてことを考えていた僕へと星歌がそんなことを告げてくる。
「えっ……?」
「ほら、いいわよ。そういう約束だったから……私はもう、当主になれたわ」
星歌が自身の両手でおっぱいを持ち上げながら告げる。
上を見上げれば、彼女の両手から解放されたことで大きく揺れ動く豊かな胸がある。
「……ちょうど、私も今、狩衣でブラをつけていないから……流石に生は恥ずかしいから、これで我慢して」
おっぱいに、触っていい???
「えっ、じゃ、じゃあ……」
自分の前に無防備となっている、触っていいとの許可を得たおっぱい。
それへと僕はゆっくりと右手を伸ばして、そして、おっぱいへと触れる。
「んっ……」
「おぉ……やわっこい」
僕が望んでいた女のおっぱい。
そにを初めて触れた僕はその柔らかさに感動し、自分の中に広がっていく安堵の感情に揺られる。
「んんっ」
僕はほぼ無心となって、おっぱいを揉み続ける。
「……あれ?なんか硬いものが、乳首?」
そんな中で、柔らかさの中にあった硬いものへと触れて動きを止める。
「ちょっ!?だめっ!!!」
そんな僕へと、一気にその頬を真っ赤に染めた星歌がほぼ反射的といった様子で自分の頭へとチョップを叩き込んでくる。
「あぅぅ」
それを受けて。
「あぁぁぁぁぁああああああああああああっ!?」
既に限界だった僕の体は、そのまま暗闇の方へと沈んでいくのだった。
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