復讐1
僕はカエサルのことは一旦諦め、撤退を始めている魔の上を跳躍して星歌の元へと戻ってくる……いや、戻ろうとした。
「おっと」
だが、星歌の周りに多くの陰陽師が集まっていることを確認した僕は地面へと降りるのは辞め、陰陽術で足場を作って上空に留まり続ける。
「さて、と……星歌様。先ほどは緊急時故に何も仰りませんでしたが、貴方は今、指名手配されている。わかりますね?」
僕が上から見た感じ、今、ちょうど星歌が周りの陰陽師たちから断罪されようとしているところだった……やっぱり、流石にあの僅かな時間で周りを説き伏せたわけじゃないんだね。
緊急時故に一旦は見逃されただけみたいだ。
「何故、私が指名手配されているのかしら?」
自分の周りを陰陽師が取り囲んでいる中、星歌は一切動じた様子を見せずに口を開く。
その姿からは不気味なまでに不安はなく、何処までも届く自信を感じさせてくれる。あの、調子なら何とかなりそうかも。
「貴方には実の母を殺した容疑がかけられています」
「何故、私がそんなことをするのかしら?そんなことをして、私に何か得することがあるかしら?一切ないわ」
「それらのことは後に、聞かせてもらいます。拘束させてもらっても?」
星歌を取り囲んでいる陰陽師たち。
その中で代表面している煌びやかな狩衣を着ている初老の男が一歩、星歌へと近づく。
「残念ながら聞けないわね」
それに対して、星歌は一歩も引かずに、余裕とした態度を見せながら拒絶してみせる。
「貴方には見えないのかしら?」
そして、そのまま彼女は初老の男に背中を向け、市街地の方に視線を向ける。
「今もなお、市街地の方は襲われたままよ」
市街地を眺める星歌はゆっくりと口を開き、今の現状をそのまま説明する。
「……」
そして、それを僕も同じように眺める。
確かに、今も魔が市街地の方では暴れており、その脅威の対処に当たっている陰陽師たちもいるが、それでも手が足りずに周りへと被害を出し続けていた。
そんな市街地の中で。
「……たこ焼き」
僕は視界の端で今まさに、魔からの攻撃を受けようとしているたこ焼きさんを見つける。
その出店は僕が以前、食べたいなと思って見ていたお店であった。
『じゃあ、今度食べにいきましょうね』
星歌と食べに行くと約束したたこ焼き屋さんが壊される。
その寸前で、僕はほぼ反射的に陰陽術を発動させて魔を殺して守ってみせる。
「こんな状況下で貴方は何をしているのかしら?今、するべきはどうやってここを守るか、ではなくて?」
「……」
「情けないわね。守るべき相手がいながら、こんな無様な醜態をさらして。そもそも何をしているのかしら。日本の中心地たちここ、平安京で魔からの攻撃を受けるなんて前代未聞よ。情けない」
「……貴方は、いなかったでしょう。いなかった人間が言えたことではないかと」
「あら?だからこそ、来てあげたんじゃない。私が来たおかげで敵は撤退していったのよ?」
僕の手柄が奪われた。
「聞きなさい。全員。私たちが陰陽師たる理由は、私たちの存在理由はくだらない派閥争いの為ではなく、この国で暮らす一人一人な平穏な日常を守ることにあるのよ。その本質を見失うのは辞めなさいっ!」
僕の手柄を奪いながらも、星歌は堂々たる態度で言葉を届けさせ、そして、その短い言葉が確実にこの場の陰陽師たちの中へと入っていく。
今まさに、命がけで戦っていた陰陽師たちに。
「私についてきなさいっ!私は母を愛していたっ!誰よりも慈悲深く、誰よりも他人を愛していた母をっ!だからこそ……私も母のようにこの世界を愛し、そして、救って見せるわ。まだ自身が陰陽師であると、陰陽師としての誇りを持っている者がいるのであれば、私と共に来なさい。必ず勝って見せるわ」
この場にいる多数の陰陽師の前で堂々たる態度より啖呵を切って見せる。
「我ら、蘆屋家。今一度、貴方の元に」
そして、この場にいた一団の一角が深々と星歌への礼を行う。
そのまま、星歌へと礼をとる陰陽師がぽつぽつと現れ、いつの間にかこの場にいたすべての陰陽師が彼女に対して礼を行った。
その瞬間。
「許可するわ。蘆屋家の当主として、貴方たちの無礼を許すわ」
星歌から神々しい光が溢れだし、圧倒的な力がこの場に降りる。
その漏れる光は、彼女が封印によって奥に沈められていた彼女の呪力だった。
「私はね、自分を信じてくれる子の為にも、決して負けることは許されないのよ」
……。
…………。
「……美しい」
僕の口から言葉が漏れる。
「あぁ……」
理解した。
これが、感動。
これが、自分を震わす感動。
これが、己の人生を変えてしまうような感動。
ようやく、あの時に聞いたことを───。
「……っ」
上空に作りだした足場へと腰掛けていた僕はゆっくりと立ち上がる。
「……」
そして、目を瞑り、自分の人生を振り返る。
すれば、僕の中に残る、心に残る人生の景色は星歌と共にあった記憶ばかりであった。
『優しさを受けたことがない、っていうあなたにも私は優しさをうんと上げて見せるわよ』
僕の在り方は変わっていない。
でも、ただ、知りはした。
この世界の肥溜めであるスラム以外の地を。
星歌の言っていた言葉を。
「ふふっ、確かに、尊いね」
僕は笑みを漏らし、手を伸ばす。
普通の日常というのは確かに心地よいものであった。
空腹に苦しむこともなく、美味しいものを食べ、誰かと笑いあう……それは、楽しかった。
「世界よ、とくと聞け。神が化身たる我が命ず……」
僕は自分の中に突如、湧いてきた。
元々知っていた祝詞を口にする。
「人よ、見よ。これが奇跡なり」
そして、僕にしては長い祝詞の果てに陰陽術が発動される。
日が傾き、徐々に太陽の陽が弱くなっていた空が一気に暗転し、太陽の陽の代わりに空の中でゴロゴロと鳴り響く黄色い閃光ばかりが地上を照らす。
「雷霆の審判」
地上を照らす光源が落ちる。
雷鳴が世界を揺らし、何百という数の雷が地上へと降り注ぐ。
その雷が貫くのは地上で大暴れしている多くの魔たちであった。
雷は周りへの被害は一切出すことなく、ただただ確実に魔だけを貫いたのだ。
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