陰陽師1
その瞬間。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
現世にやってくる僕たちを待ち構えていたとばかりに目の前に立っていた魔がこちらへと牙を剥いてくる。
「邪魔」
そんな魔の攻撃に合わせて拳を振るった僕は暴力と暴力のぶつかりあいにおいて完勝。
魔の全身を拳一つで消し飛ばしてみせる。
「……相も変わらずえげつないわねぇ。貴方」
「でしょ?」
僕は星歌の言葉に頷きながら、陰陽術を発動させてこの街全体の様子をスキャンする。
「……既に、伏兵としてスラムにいた面々が動き出しているな」
そして、まず真っ先に意識したのは既に王級の魔が動き始めていることだった。
「そうね」
僕と同じく、陰陽術で街全体をスキャンしている星歌も同意の言葉を告げる。
一見冷静な星歌の下には焦りの感情が何処までもつき纏っている……本当に、星歌はこの街の為に、多くの人の為に戦おうとしているんだな。
「星歌」
正直にいって、この街のことなど僕は知ったことじゃないが……それでも、この状況は使える。
これはひっくり返せるね、現状を。星歌を当主の座にまで持ってこれる。
「……何?」
「君の封印を完全に解こう」
「無理よ、まだ時間がかかるわ。最後のところは本当に硬いのよ……私の、奥義ともいえるものだから」
「でも、全盛期の力を取り戻せれば陰陽師界で上から五指に入れて、王級の魔物とも戦えるようになるんでしょう?」
「えぇ、そうね。でも、悔しいことに……無理な、ものは無理なのよっ!」
僕の言葉に対して、星歌は心から悔しそうにして答える。
「自力で無理なら別のところから持って来ればいい」
「はっ……?」
「簡単だよ。解かせればいい、君に封印をかけた人物の手で。こんな混沌とした状況なんだ。君のカリスマで人々からの信頼を妹たちから奪うくらい簡単でしょう?」
「……っ!?」
僕の言葉に星歌は息を飲み、そして、その次に不敵な笑みを浮かべる。
「舐めるんじゃ、……舐めるんじゃないわよ。出来るに決まっているじゃない。そうね、最初からそうすればよかったのよ」
最初からは無理じゃない?
こんな状況でもなければ、根回しもなしに自分のカリスマだけで状況を変えることなんて出来ないと思うけど。
「そうだね」
なんてことを考える僕の本心は隠して星歌の言葉に頷く。
「それじゃあ、行動方針は決まったね。星歌は中央に、僕は他を削ってから行くよ」
既に陰陽寮内にいた魔はほとんど掃討されており、残る魔は市街地で暴れている奴らに、スラムの方から行動を開始した魔だ。
スラムの方から行動を開始した魔のうち、半分は街への襲撃を加担し、残る魔は陰陽寮内に侵入するため、正門の方から堂々と攻勢を仕掛けていた。
そんな魔に対抗するため、陰陽寮内で戦っていた陰陽師たちは今、ここの正門周りに集まってその対処に向かっていた。
「わかった。この中はお願いね」
「任せて」
ここ最近はずっと行動を共にしていた星歌とは一旦別れ、僕は陰陽寮内に魔を倒すべくこの中を疾走する。
「時間はかけられないからな」
陰陽寮内にいる魔の数は全部で十八。
それぞれがわずかながらの陰陽師と死力をかけた戦いを行っている最中だった……別に、僕がわざわざ手助けしなくとも各々で対処可能だったかもしれないが、もしかすると生まれてしまう犠牲は減らした方がいいだろう。
「がぁッ!?」
「うわぁぁっ!?」
「失礼」
「あ、あれ……?」
「キャンキャンっ!」
「クソ……こいつ、硬すぎるぞ」
「失礼」
「ほえ?」
「お前らっ!頑張れ、あと少し……あと少しだ」
「ぐるるるるる」
「失礼」
「はにゃ?」
僕は迷うことなく陰陽寮内を駆け巡り、魔を次々と葬り去っていく。
「これでラスト」
「きゃぃぃん」
全部で五分足らず。
さほど時間もかけずに陰陽寮内を駆け巡り、すべての魔を討伐し終えた。
「た、助かりました。私一人で勝てるか、少し怪しかったので」
十八体目の魔を蹴り殺した僕へと、つい先ほどまで魔と戦っていた若い男の陰陽師が声をかけてくる。
「ん?あぁ、そう。君が無事なら良かったよ。そんなことより、早く正門の方に行きなよ。大量の魔を相手に陰陽師たちが一生懸命戦っているから」
「あ、あぁ……わかっているさ。君もご武運にね」
「ありがとう」
僕は自分へと声をかけていた陰陽師との会話を早々に終わらせ、正門の方へと向かっていく……流石に壁をぶち破っていくのは不味いよね。
廊下が入り組んでて動きにくい。
「んっ、よし。見えた」
入り組む廊下にちょっとだけ不満に思いながらも進み続けた僕はほんの一瞬、下へと視線を送った後、陰陽寮の中から外へと出る。
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