襲撃
「なんだァ?あれはぁよぉ」
触手の一本一本が十数メートルほどある、明らかに怪物と言った見た目の存在に俺は眉を顰める。
「な、何故、魔がこんなところにっ!?」
そんな僕の下で仮面の下で驚愕の声を上げる。
「……魔?ほーん、こいつが」
これが人類を苦しめているという魔か……実際には初めて見たな。
「い、今すぐに対処しろっ!」
俺が初めて見る魔を前に少しばかり感動していた中。
この場で誰よりも慌てている仮面の男はちらりとコチラに視線を送った後、黒服たちへと触手たちと戦うように指示する……へぇ、この状況は中々に使えそうじゃないか。
もし、魔に陰陽師が敗北すれば、星歌の妹たちの権威は失墜するだろう。
そうなったとき、おそらく自体は一気に星歌の方へと傾くことになるだろう。
「後ろから失礼しますよーっと」
星歌を抱きかかえた状態のまま地面へと降りてきた僕は一切の迷いなく仮面の男との距離を詰め、その背後からドロップキックをかましてやる。
「がふっ!?」
僕の蹴りを受けた仮面の男はそのまま地面を勢いよく転がって、その綺麗だった黒服を大きく汚していく。
「なっ!?お前っ!我らに攻撃はしないと言ったではないかっ!?」
それでも、仮面の男は自分がある程度手加減したのもあるとはいえ、僕の蹴りを真正面から食らいながらもしっかりと立ち上がってきたのでそこそこ強いのだろう。
「気が変わった。別に嘘は言っていないよ」
そんな仮面の男の言葉に対して、僕は当たり前のように、一切悪びれることもなく答える。
そう、本当に気が変わったのだ……いや、というよりも状況が変わったのだ。
これを利用すれば、星歌が妹たちへの復讐を容易には果たせるようになると思うくらいには。
「な、何を屁理屈を……っ!俺に逆らって無事でいられるともぉ!」
わかりやすく敵対姿勢を見せた僕に対して、仮面の男はこちらを睨みつけてくる。
「そんなことよりも上」
それに対して、僕は上を見るように指を動かす。
「……えっ?」
それに従って仮面の男が視線を持ち上げた時が、その男の人生の終わりの時であった。
触手のすぐそばへと僕の蹴りで吹き飛ばされていた仮面の男を容赦なく触手は容赦なく叩いたのだ。
十数メートルというあまりにも大きすぎる触手から踏みつぶされた仮面の男は一瞬でその命を奪われたのだ。
「これで君たちの頭がいなくなっちゃってね。どうする?こっちと、そっち、どちらを優先する?」
頭がいなくなった黒服たち。
彼らへと僕は迷いなく触手と星歌、そのどちらを選択するかを問う。
「指揮権は俺が引きつ───」
「馬鹿でぇ」
それに対して答えを出し、周りへと命令を出そうとするおそらくはトップが何かあった時の為に用意されていたであろう頭の代理へと僕は拾っていた石を投げつけてその頭を潰して殺す。
「これで頭は二つ目。次の指揮権は誰かな?」
今も触手が暴れている中。
「ど、どうすれば……」
「星歌優先だろう。彼女を捕らえられなければ上から何と言われるか……」
「な、何を言っている……っ!陰陽師として魔を最優先としないことなど」
「そもそもとしてあれの対処に勢力をあげなければ普通に負けるぞ……っ!こいつ、普通に一級クラスの魔だぞっ」
黒服たちは無様にも迷いを見せていく。
そんな迷いの中で、まともに連携も取れていない黒服たちは触手たちの対応の手が鈍っており、普通に触手によって殺されている者も多く出てきていた。
「……まだ来るか」
一気に状況が進んでいる中であってもなお、腕の中で呆然としながら、口を開けてアホ面を晒している星歌を抱きかかえる僕は更なる増援を察知して視線を動かす。
「……」
その視線の先。
そこには先ほどまではなかったはずの場所に謎の鉄の扉が生まれていた。
「ぎゃぎゃぎゃ……」
「ぶるるるるぅぅぅぅ」
「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアっ」
「ぎぎぎぎぎ」
ゆっくりと開かれた鉄の扉。
そこから出てくるのは緑の肌を持った人型の生物、四足歩行する形容しがたい黒と赤の怪物、大量の瞳が浮かび上がっている黒色の大きな玉、二又の頭を持つ怪物等。
恐らくは魔だと思われる化け物たちが続々とこの場にやってきていた。
「う、嘘だろ……?」
「ありえない」
「ば、馬鹿な……こんな、数をさばくのはどうやっても」
その光景を見て、黒服たちが驚愕に目を見開いて絶望というような雰囲気を漂わせ始める。
「逃げるよ」
それを横目に、僕は星歌の耳元へと自分の口を近づけて囁き声をつぶやく。
「……っ!?」
そんな僕の言葉を受け、ようやくこれまで呆然としていた星歌が現実の方へと立ち返ってくる。
「な、なぁにをっ!?い、今更っ!」
「うるさい、行くよ」
僕は自分の腕の中でいきなりジタバタと暴れ出す星歌を強引に押さえつける。
「あの鉄の扉の中に入るよ」
「……はっ?何を言って」
「もう決定事項だからっ!」
そして、僕は一切の迷いなく、先ほどの化け物たちが出てきた鉄の扉へと飛び込む。
それが最善手であると何となくの直感で思ったから。
僕と星歌が鉄の扉へと入ると同時に、それはゆっくりと閉ざされるのだった。
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