生活

 スラムでは感じられなかった陰陽術のあれこれ。

 だけど、スラムからは一転。街の方に出てくれば結構市民の人たちでも陰陽術を使っていたらしい。

「だいぶ、封印の方も解けてきたわ。ある程度の陰陽術は使えるようになってきたわ」

「ほうなの」

「えぇ、これならば私もある程度はぁ……ねえ、私の話を聞いているかしら?」

 だからこそ、星歌は結構普通に周りへと聞かれちゃいけないことも平然と口にしている。

 別にありふれている陰陽術。

 そのうちの一つを使い、相手に自分たちが話している内容に意識させず、理解もさせないようにしているから。

「はぉべている」

 陰陽術があるからということで大真面目なことを普通に道端を歩きながら告げてくる星歌の言葉を今、僕は露店で買った焼きそばパンを食べながら聞いていた。

 うん、全然話は聞いていないよ?

「ねぇ……そろそろ私としては動き出したい、って話を昨日の夜にしたわよね?それで今日は街の中の様子を見て回って、敵方がどれだけ活発に動いているかを探りたい、ってそういう話をしたわよね?聞いていた?」

「……」

 僕は焼きそばパンを口に含んだまま星歌の言葉へと頷く。

「それと一緒に、明日になったら私の封印を緩める、その大きな壁を越えているかもしれないから、それについても詳しく話すから聞いててって言ったわよね?」

「言っていたね」

 ようやく口の中にあったものは全部飲み込めた僕が星歌の言葉に頷く。

「なんで焼きそばパン食べているの?」

「美味しそうな匂いがしたから」

「我慢して?」

「ちょっと無理だった」

「怒るよ?」

「ぴえん」

「古い。何十年前よ」

「ぴえんを超えてぱおん」

「もー、ちゃんと協力してよ。それじゃないと、私たちは一生逃亡生活なんだけど」

「……」

 僕が星歌と共にスラムの方から市街地へと場所を移してから約一週間ほど。

 この一週間で僕は星歌と共に比較的穏やかなな生活を送っていたと思う。

 だけど、この生活も永遠じゃないし、いずれは終わりにしなきゃいけないときがある……だけど。その上で、僕はあまり動き出したくなかった。

 何か、嫌な予感がするから……うまく言語化は出来ないのだが。

「……おっぱいを揉めないのは困るなぁ」

「うう゛んっ!?」

 とはいえ、ずっとこのままだと何時まで立っても僕はおっぱいを揉むことが出来ない……嫌な予感のすることは確かだ。

 でも、それが自分の命に関わることじゃないも直感的にわかっていた。

 なら……。

「何をするの?」

 僕は星歌へと具体的に何をするのかを尋ねる。

「急に切り替わるわね……まぁ、乗ってくれるのであればいいけどね?えっとぉーね、まずは私の家と反目する関係の家や、私個人に恩がある家に話を持ち掛けるわ。それで自分の派閥を作るのよ」

「うん」

「既に、私の妹たちは愚かなことに自分の欲望のままに動いていたことから他の家から不満を抱かれているわ。この情報は市井にまで広まっている話なのよ。これは確定的でしょう」

「……へぇ」

 聞いている限りだとかなりこっちの方に風が流れているような気がする……はて?ならば、僕が感じている嫌な予感は何なのだろうか?

 まぁ、いいや……別に今、考えても答えが出なさそうだし。

「というか、別に僕が聞く意味なくない?それ」

「えっ……?」

「結局のところ、ここらへんの話は星歌の話なんだから。スラムの餓鬼に言われても困るよ。僕は何処まで行ってもついてただ、ついていくだけだから」

 僕に出来ることなんて基本的にはないのだから、別に星歌の話を聞く必要なんてないよね?よくよく考えてみれば。

「い、いや……やっぱり共有しておいた方がぁ」

「いいよ、任せる。僕は星歌の動きについていくだけだから」

「わかったわよ……確かに、この動きの主は私、だものね。やっぱり私が主体的に動いてこそだよね」

「うん、そうだよ」

 僕は星歌の言葉に頷く。

「それじゃあ、ついてきていて。今日、私がやりたかったことを色々と済ませちゃうから」

「わかったよ」

 そして、ついさっきよりも何かに急かされるように、歩く速度を徐々に速めていく星歌の後を僕はゆっくりとついていくのだった。

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