第18話 番外編

 僕と心野さんがデートとしてカラオケ屋にいた時、隣の部屋でもひとつの『物語』が紡がれていた。


 なので、今回は僕――但木勇気が語り部として彼、そして彼女の物語を語っていこうと思う。人様の物語を語るなんてことに、僕は慣れていない。でも、慣れていないなりに頑張って語っていくとしよう。


「なあ、委員長。さすがに気にしすぎだろ。言われたから仕方なく部活をサボって来てみたけどさ」


「何言ってるの友野くん。これは一大事なのよ? 高校生が密室で二人きりだなんて、何かあったら大変じゃない」


 まあ、これでお気付きの方もいるだろう。これから語るのは、友野と委員長である音無さんの物語だ。


「ふう……委員長は心配しすぎだって。但木に任せればいいじゃん。俺達があまり干渉しすぎるのも良くないと思うぜ? というか、委員長? あんた今何してるのさ」


「不純異性交遊が行われてないか、確認してるの。委員長として当然でしょ?」


「確認って……」


 さて、今の状況を端的に説明しよう。友野は頬杖をつきながら委員長――音無さんの様子を見ているところだ。


 で、その音無さんはというと、壁にピッタリ耳をつけ、聞き耳を立て、僕と心野さんの部屋の状況を観察しているところだ。


 なんというか、ものすごい絵面である。


「不純異性交遊なんてあるわけないだろ。但木だぜ? アイツは心野さんとは話ができるようにはなったけどさ、あくまで女性恐怖症だ。あり得ないね」


 友野の言葉を聞いて、音無さんはピクリと反応。そして、今からお説教でもするかの如く、ちょっと怖いオーラを出しながら友野に向き合った。


「友野くんは分かってないよ! 確かに但木くんは女性恐怖症だけど、男はオオカミって言うじゃない! ココちゃんは大人しいから流されて、あんな事やこんな事を許しちゃうかもしれないでしょ!」


「あんな事やこんな事ねえ」


「そう! あんな事やこんな事!」


「あのさ、委員長? ひとつ忘れてないか? 今の状況も含めて」


「今の状況? え? 友野くん、それってどういうこと?」


「俺と委員長も、密室に二人きりなんだぜ? しかも、俺も一応男だからな? 委員長の言うオオカミになっちまうかもしれないぜ?」


「え……」


 音無さんの顔、真っ赤っか。今にも火が出るのではと思う程に、真っ赤。一度壁から離れ、ソファーにちょこんと座って黙り込んでしまった。ちょっとだけ俯き加減で。


「……あのさあ、委員長。最近になって少しずつ分かってきたんだけどさ」


「な、何がでございましょうか」


 ガッチガチに緊張しながら、より顔を赤くしながら、音無さんは急に敬語に。まあ、分かる。僕ならね。音無さんは友野に恋をしているから。


 けど、友野は気付いていないだろうな。アイツって、実は結構鈍いのだ。モテモテ人生を突っ走ってきたくせに。


「委員長って、実はムッツリスケベだろ」


「む、ムッツリ――!!?」


 友野はニヤニヤしながら音無さんを見やった。コイツ、音無さんの反応を見て、絶対に楽しんでるだろ。


「さすが心野さんと仲が良かっただけあるな。あの娘もそうらしいし」


「な、なな、何言ってるの友野くん! わ、私は決してそんな女では……」


「あっはは! あー、ビンゴだったか。やっぱりな。委員長はムッツリスケベっと。インプットインプット」


「ち、ちが……わ、わわ、私は……」


 音無さん、動揺しまくり。その様子を見て、よりニヤケ顔になる友野。それにしても、すごく楽しそうだな友野の奴。まあ昔から意地悪大好きだったけど。今も変わらずか。


「で、どうする委員長?」


「な、何がでございますでしょうか……」


「いや、せっかくだから俺、今からオオカミになってやろうかなって思って」


「お、おおおお、オオカミでご、ございますか……!!?」


 すごい動揺を見せる音無さんであった。あ、親友の僕としてちゃんと説明。友野は決してそんなことをするような奴ではない。ただ、『意地悪スイッチ』の入った友野は色んな意味で面倒くさい。これは確かだ。


「ははは! 嘘だよ嘘。委員長って面白い奴だな。真面目が取り柄な人だと思ってたけど、案外そうでもないんだな」


「わ、私は真面目でございます……」


「まあ、安心しな。天井に黒い何かがあるの分かるだろ? あれ、監視カメラだから」


「……え?」


 まだカッチカチに緊張している音無さんだけれど、しかし、何かを思い付いたようだ。急に腕を組み始めて思考モードに入ってしまった。


「ん? どうした委員長?」


「い、いえ……。あ、後で防犯カメラの映像を頂きに行こうかと。記念のために」


「き、記念……」


 うん、さすが心野さんの幼馴染だけある。思考が似すぎ。それを聞いてゲラゲラと笑う友野である。うん、この前に僕が言ったように、二人共付き合っちゃえばいいのに。結構、お似合いだと思うんだけどね。


「お! 但木と心野さんが部屋から出ていくみたいだぜ。どうする委員長? ついて行く?」


「いえ……き、今日はもうやめておきましょう。なので、も、もう少しだけ、ここに一緒にいませんか?」


 ――以上、そんな二人の物語でした。うん、やっぱり語り部は僕には合わないな。喋るのは得意ではないし。


 もう語り部はしない。だけど、この二人の物語はまだまだ続いていく。そして、ハッピーエンドで幕を閉じるはずだ。


 僕はそう、信じている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る