に『アタマをあらいましょう』

——アラエヤカスは失踪した。


 あの日以来、カステッルムの人間も、ローマ市民キーウィス・ローマーヌスも、誰一人として、アラエヤカスの姿を目撃していない。しかし、ローマの子供たちは、ある一人インペラトールを除いては、飽きることなく彼の絵本を楽しみ続けることができた。なぜならば、不思議なことに、依然として彼の新作絵本は、次々と出版され続けたからだ。ある時、あの三巻物トリロジーの続編が出版された。


 アラエヤカスの三巻物トリロジー、第二巻、『アタマをあらいましょう』。


 ここに、その二ハページ目がある。



・〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・


 きょうは コロッセオで どろんこあそびをしたよ。


 オウサマの とくべつな おゆるしで


 わたしたち こどもが はいってもよかったの。


 おうちに かえったら まずさいしょに おててを あらうの。


 だから わたしは せんめんじょに いくの。


「しっかりてあらい ママ 二かい やるね?」


「えらいわ ハナちゃん えいせいさんげんそく おぼえてるのね」


「でもね きょうはちがうの」


「ちがうって どういうこと?」

 

「つちが けんとうしの ちで よごれていたからなの」


「ああ それなら いつもよりもっと ごしごししなくちゃね」


「うん!」


 てきこくの こどもたちには ナイショの じゅもん。


「「ごしごし ごしごし ばいきん ごしごし」」


「「ごしごし ごしごし ばいきん ばいばい!!」」


 おてて きれい きれい。


「ねぇ きょうは おふろで しりとりしたい!」


「いいわよ じゃあ ばんごはんの あとが たのしみね」

 

 

             -二ハ-

・〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・

 


 ローマの子供たちは、これを、何度も何度も読んだ。


 なので、一言一句が、アタマの中に、刻み込まれた。


   〈子〉


〈さん『アシをあらいましょう』に続く〉

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