第13話
「あの爆発で地下室が崩壊した時、ありさ達と私達誘拐された人間は必死で逃げました。
外へと繋がるドアはは二ヵ所あるんでが、ありさ達が入って来た所は爆発の勢いが凄くて行けそうになくて。
攫われた一人があの階段を見つけてくれて、どこに続いているかは分からないけどとにかく逃げようってみんなで駆け込んだんです」
斎藤さんは自分達が来た所とは別の通路を見遣る。確かにそこは中心部に近い場所にあった。俺達は黙って続きを促す。
「必死で階段を上がって、そうしたら途中で上が塞がってて、行き止まりかと思ったら先頭にいた人が試しに天井を押したら動いて、それで庭に出られて……そこがさっき私が見つけた入り口です」
彼女の体験はまさにゲームの時間制限イベントのようだった。時間以内に脱出できなければ爆発に巻き込まれてゲームオーバーみたいなやつ。それを彼女は本当に体験したんだ。
「あの爆発で誰かが追って来る可能性もあったから、ありさ達が乗って来た車に全員無理矢理乗り込んで離れた所まで走って……。
追手の気配も無いようだから、そこでようやく助かったんだって全員で喜びあったんです。でも……」
斎藤さんの声が震える。泣きそうなのを必死で堪えているようだった。
「一人欠けてるって被害者の中の誰かが言って、数えてみたら確かに一人居なくて、誰が居ないのか思い出してみたら私の隣の台に寝かされていた人だったんです」
一人脱出できなかった……?もしかして爆発で怪我をして動けなくなったんじゃないだろうか。みんな逃げるのに必死になって誰もそのことに気付かずに外へと。それは何という不運だろう。
「本当は戻って確かめるべきだったんですけど、私もみんなももうあんな所に戻れる気がしなくてそのままにしてしまって……」
「もしかしてそれが気がかりで?」
「はい……。あの人が逃げられたのか気になって……。もし亡くなっていたらあんな場所にずっと居るのは可哀想で……。せめて遺体だけでも見つけてあげられたらって思ってたんですけど……」
段々と彼女の声がしぼんでいき、鼻をすする音が混じる。だから悲惨な状況が広がっていても頑張って探していたのか。
「やっぱりあの時探していれば良かったな…………」
俺はハンカチを彼女の手に握らせてやって赤石さんが彼女の背をさする。誰も彼女を責めなかった。人道的には褒められない行動でも、心情的にはそれを選択してしまう気持ちがよく分かったからだ。
警察でも救助隊でもないのに、あんな怖い思いをして更に事故まで起きた場所に戻るのは無理だ。
彼女達の行動は悪くないとは言いきれないが絶対的に悪いとも言いきれない。せめて安否を確認しようと戻って来ただけでも勇気のいる行動である。
それと同時に俺の中である疑念が頭に浮かんだ。逃げられなかったその人はあの女とグルなんじゃないかという、彼女には聞かせられない疑念である。
逃げ遅れたフリをしてどこか安全な場所に身を隠し、彼女達が研究室を出たところで隠れ場所から出てきて、下半身が潰れて瀕死状態の女の脳をクローンに移し替える。
あの肉塊の山で引き摺られたような跡があるのもこの仮説を後押ししていた。女が身体を潰されて動けない状況で行動できるのはその人しか居ない。
恐らく被害者のフリをして何らかのアクシデントが起こった時の為に監視をしていたんだろうか。
……いやまてよ?それだと矛盾が起きる。もしその人が女とグルだったとしたら、御園さん達が暴れている最中に邪魔したり女の加勢に入っていた筈だ。でも斉藤さんからそんな話は聞いていない。
だとしたら違うのか……?良い考えだと思っていたのに。
「行方不明者のニュースとかで出てくるかな?その人の特徴覚えてます?」
念の為その人の特徴を覚えておこうと尋ねる。万が一その人が生きていたとして警戒するに越したことはない。
純粋にその人の安否を心配する斎藤さんには悪いけれど。
「はい……。中年の男性で、あまり人のことを悪くは言いたくないんですが……。お腹が出ていて髪が……特に頭頂部が少なかったかな。あとスーツ着てました」
相手は運動不足の中年男性で髪の毛は薄い。服はグルだった場合変わっているかもしれない。覚えておかないと。
「そっか……取り敢えず上に行きましょ。いつまでもこんな所に居るのは色々と良くないだろうし」
赤石さんは彼女を促して先程下った階段を今度は上る。今度は赤石さんを先頭に真ん中に斎藤さん、最後尾の俺が背後を警戒する形で一直線に並ぶ。
フタを開けて外に出ると新鮮な空気が肺いっぱいに満たされる。自分でも知らないうちに呼吸が浅くなっていたみたいだ。
近くで待っていたみちるさんが直ぐ駆け寄って来て、泣いている斎藤さんに「何かあったの?」という目で見て来る。しかし説明が難しい。
「ちょっと彼女についててあげて。ボク達まだ調べたいことがあるから」
斎藤さんをみちるさんに預けた赤石さんが目だけで「ついて来て」と言っていた。俺は「あぁ、この人も気付いたんだな」と確信したので何も言わずに頷く。
再び研究室へと引き返すと、陰鬱な雰囲気とまた鼻に届く腐敗臭に息が詰まりそうになる。しかしこんな話は彼女達には聞かせられなかったし、確かめるチャンスはこの時しかない。
階段を降りきって研究室に着くと前を歩いていた赤石さんが振り向きざまに切り出した。
「よねちゃんも同じこと考えてたよね?その中年の男の人があの美人さんとグルだって?」
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