3:2018/05/01 15:22
ゴールデンウィークの新作ラッシュを前に、ロングラン上映をしていた『グレイテスト・ショーマン』が終映するらしい。俺はテーマになんとなく尻込みしていたその映画を、最後だからと見に行くことに決めた。おそらく、劇場の設備で見た方が楽しめる映画だろうと思ったからだ。暦上は一応平日だが、仕事は休みだった。
映画は素晴らしかったが、同時にどうにも複雑な気持ちになった。ああいう問題についての取り扱い方が、それでいいのかという気持ちである。そんな気持ちを抱え込んでいると、後ろから声をかけられた。
「よっ」
驚いた。それはダイキだった。自分の中で完全に切り捨てた気分になっていた男から話しかけられ、どうしていいのか一瞬分からなくなる。
「ああ、……どうも」
「どうかしたか?」
こちらの微妙な気持ちを察したのか、ダイキはそう聞いてきた。
「いや、だってラインしたのに全然返事来なかったから」
そう、そもそもラインの交換を持ちかけてきたのもダイキの方からなのだった。俺がそう言うと、
「えっ、ライン、くれてた?」
「送ったよ。二回くらい」
「届いてないよ」
「え?」
「こっちに届いてない」
「ブロックしたとかじゃなくて?」
「してねぇよ!」
そう言いながらダイキはラインのホームのともだち画面を俺に見せてきた。スマホの画面を、どんなものであれ抵抗なく見せられるゲイは少数派だと俺は思う。その画面には、確かに俺がともだちとして登録されていた。そしてそのトーク画面を開くと、そこはまっさらだった。
「ほんとだ」
そう言い、俺も仕方なくスマホのトーク画面を見せる。そこには確かに送信したメッセージの履歴が残っていた。
「なんか送ってみろよ」
俺は適当に、こんにちはみたいなスタンプを送る。届かなかった。
「なんだこれ、ラインぶっ壊れてんのか?」ダイキはスマホを、昔の携帯電話みたいに振ってみている。
「まあ、とりあえずアプリの方から連絡してくれよ。なんかラインは調子悪いみたいだから」
そう言うダイキに、直感的に嫌な予感がして、出会い系アプリの方からもメッセージを送ってみたけれど、そちらのメッセージも届かなかった。
「なんだこれ。どうなってんだ」
その時、俺の頭の中にあの『穴』が唐突に浮かんだ。あの『穴』が、俺の送るメッセージを飲み込んでしまっているのではないだろうか。ダイキにそんなことを言っても、「馬鹿馬鹿しい、何言ってんだ」と一蹴されそうで、俺はその思いつきを心の奥底に仕舞った。
いろいろ検証した結果、電話だけはなぜか繋がるということが分かったので、俺たちは今後連絡は電話でとることにした。なんてアナログな世界だろう。
帰宅しテレビをつけると、ちょうどニュースの時間だった。
『青年、新宿の穴に飛び降り死亡か』
そんな見出しが大きく画面に映る。
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