第6話 肉と毛皮の服

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 俺達はそれから毎日、〈化け鼠〉を二匹ずつ狩り続けた。

 もちろん、そのうち一匹は〈トカ〉さんへ渡している。


 数日たったある日、俺達を〈トカ〉さんは自宅に招待してくれた、そこで肉を食べさせてもらえるようだ。

 俺達は深夜を待って納屋を静かに抜け出した、朝早く起きる村人は眠りこけているみたいだ、村の外へ出ていく訳じゃないので、見張りを気にする必要もない。


 「あははっ、やっと肉が食べられるな」


 「しー、静かにしなさいよ。 まったく」


 〈トカ〉さんの自宅は村の柵沿いにある、小さくてボロい小屋みたいな家だ、俺達が寝泊まりしている納屋に比べればずっとマシだけど、いかにも小さい。

 〈トカ〉さん夫婦二人なら少し余裕があるが、俺達が入ると、少しも隙間がないって感じだな、子供はいないようだけど、一緒に住むのは物理的に無理だろう。


 長年にわたって〈洞窟の迷宮〉で命を賭けた結果が、これか、この村から出ていかない理由がなくなるよ。


 〈トカ〉さんの嫁は、小さくて可愛い〈ミト〉と言う名前のおばあさんだ、話は出来ないけど、始終コロコロと笑っている気の良い人だと思う、〈トカ〉さんが惚気のろけるのもしょうがないな。


 久しぶりに食べた肉はすごく美味しかった、〈化け鼠〉の肉らしいが適度に弾力があり肉質がとてもジューシーだと思う。

 〈直ぐ元妻〉も「美味しい」「美味しい」と言いながら、涙を流さんばかりに感動している。

 ふん、やっぱり肉は美味しいだろう。


 「〈あなた〉は、もっと野菜も食べなさいよ。 ビタミンが不足するわよ」


 はぁ、久しぶりに肉を食べているのに、なんでこんなに五月蠅いんだろう、嫁が〈ミト〉さんだったら良かったのに。

 野菜の味は普通だな。


 それからしばらくたったら、毛皮の服を〈トカ〉さんが俺達に渡してくれた、素朴な造りのため何だか原始人になった気がするけど、ゴワゴワとして固いから体を守られている気が一杯するぞ、獣臭いのは我慢だ。


 他の村人に見られるとマズいので、洞窟の中で着替えたのだけど、〈直ぐ元妻〉の下着はずず黒くなっている、水浴びさえしていないので垢塗あかまみれなんだろうな。

 長風呂だった〈直ぐ元妻〉に、出来ることなら水浴びだけでもさせてやりたいな、それに替えの下着もなんとか出来ないものか。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 お肉はすごく美味しかった、前の世界で食べた高級なお肉と比べても、〈化け鼠〉の方が勝っているくらいだ、まあこれは今の生活が貧し過ぎるから、お肉への評価が何十倍にもなっているからだと思う。


 〈おばあちゃん〉はすごく可愛い人だった、私もこんな風な〈おばあちゃん〉になりたいと思えるくらいに、笑顔が素敵で性格も良い人だ。


 ただとても悲しい運命を想起そうきしてしまう、〈トカ〉さんにもらった〈孕まない煎じ薬〉を〈ミト〉さんは、大人になってからずっと飲んでいたんだと思う。

 この貧しい村では移住してきた人達に、子供を作る権利を与えていないんだ、ギリギリの暮らしを守るために産児制限を行っている気がする。


 〈ミト〉さんは愛する〈トカ〉さんとの赤ちゃん、愛の結晶が心の底からほしかったはず、それを思うと泣けてきそう。


 〈まだ夫〉が笑いながら、お肉を食べている顔を見るとイラッときてしまう、〈ミト〉さんはニコニコとしているけど、すごく辛い目に遭っているんだぞ。


 〈トカ〉さんは〈ミト〉さんが見たくもない〈孕まない煎じ薬〉を、処分したくて私達にくれたのだろう。

 いまだに〈トカ〉さんと〈ミト〉さんは口づけを交わしていると言っていたけど、子供を禁止された夫婦の営みは、愛することだけにとがって、濃縮されたものになるのだと思う。


 生涯二人だけで暮らすことになるのだから、すごく愛するか、すごく憎むのか、まるで空気みたいになるのか、いずれにしても極端になるはずだ。


 それに比べると、私達はなんて中途半端なんだろう、すごく愛してもいないし、それほど憎んでもいない、空気みたいに無視も出来ない。


 毛皮の服を着てお肉を食べたせいか、私達の狩は上手く行くようになった、危なげなく〈化け鼠〉をコンスタントに二匹狩ることが出来るようになった。

 〈まだ夫〉の言うように、私達の〈能力〉が上がったせいもあると思う、コケを袋一杯入れても重いと感じなくなっている。


 私の腕力が強くなっているんだわ。

 このまま筋肉隆々になったら、どうしよう、あまり筋肉質な体にはなりたくないな。

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