第5話 肉と服

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


今日は怪我をしないで帰って来られた、ステータスにあまり変わりはないが、少しは強くなったのだろう。


試しに見張の〈トカ〉さんのステータスを見たらこうなっていた。


【〈トカ〉】

―――――――

等級 ―  0

―――――――

生命 ― 25

体力 ― 27

魔力 ― 15

―――――――

経験 ―999

―――――――

技能 ― 突き

     集中

―――――――


 ぬくぬくと育った俺達とは、置かれている環境がまるで違っているのだろう、お年寄りの割に、素の数値がとても高いな、それに〈技能〉が二つもある。


 十年間も迷宮に潜っていたから、取得出来たんだろうな、逆に十年間でこれだけとも思える、効果も不明だし他の人と比較も出来ていないから、何とも言えない。


 もったいないのは〈経験〉の値だな、無茶苦茶な数値が死蔵になっている、〈等級〉が上がれば上がるほど大きな数値が必要になるはずだけど、〈等級〉を上げれば〈トカ〉さんはスーパマンになれそうだよ。


 俺は〈トカ〉さん以外の、村人のステータスをこっそり覗いて、大まかに〈生命―20〉、 〈体力―21〉が平均だと概算した、女性のステータスは少し低くなるようだ。

 〈等級〉が上がっている人はいなかったし、〈技能〉を持っている人は〈トカ〉さんだけだった。


 〈洞窟の迷宮〉で魔物を狩ることで、何らかのポイントが入る仕様なんだろう、魔法的なものを持っている人は誰もいなかったので、〈魔力〉は今のところ無視するしかない。


 それと〈経験―1〉で〈等級―2〉へ上げることは出来なかった、〈等級〉を上げるため、もっと魔物を狩って〈経験〉の値を増やす必要があるらしい。



 今日の狩は、昨日よりもっと上手くいった。

 〈トカ〉さんが、〈化け鼠〉は真っすぐにしか攻撃してこないと教えてくれたんだ、先人の経験と言うか、知恵は本当に役に立つ。


 俺と〈直ぐ元妻〉は、〈化け鼠〉が壁を蹴って跳びついてくる瞬間を狙い、二本の槍で迎え撃つことが出来た、ギリギリ間に合った感じだけど、間に合ったことに途轍とてつもない差がある。

 タイミングさえ合わすことが出来れば、〈化け鼠〉の方から刺さりに来てくれるってことだ。


 俺の方じゃなくて、なぜだか〈直ぐ元妻〉の槍に刺された〈化け鼠〉を、俺は冷静に仕留めることが出来た。


 「きゃー、グルングルン暴れているわ。 生き物の感触が伝わってきて、吐きそうよ。 早く、早くしないと、抜けてしまうわよ」


 〈直ぐ元妻〉がごちゃごちゃと五月蠅く無かったら、最高の狩だったな。

 肩でぜぇぜぇ息をしている〈直ぐ元妻〉の、背中をさすりながら、ステータスを確認してみる。


 〈経験―2〉を消費して、〈等級―2〉に上げることが出来た、変更後のステータスも当然掛け算で上がっているな。

 〈等級―2〉でやっと村人の平均になった感じだ、このまま〈等級〉を上げていったら、俺はスーパマンになれるかも知れない、この世界へ飛ばされて初めて嬉しくなってしまう。


 冷静になろうとしても、笑いが込み上げてくるぞ。


【自分】

―――――――

等級 ― 2 

――――――――――――――――――

生命 ― 17 ×1.2= 20.4

体力 ― 16 ×1.2= 19.4

魔力 ―  9 ×1.2= 10.9

――――――――――――――――――

経験 ―  0

―――――――

技能 ― なし

―――――――



【〈直ぐ元妻〉】

―――――――

等級 ― 1 

――――――――――――――――――

生命 ― 14 ×1.2= 16.8

体力 ― 13 ×1.2= 15.6

魔力 ― 12 ×1.2= 14.4

――――――――――――――――――

経験 ―  0

―――――――

技能 ― なし

―――――――


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 〈まだ夫〉がニヤニヤしている、私の体を触っているからじゃないらしい。

 〈透明な板〉を見ているから、ゲームでもしているつもりなんだわ。


 命懸いのちがけで狩をしているって言うのに、ずいぶん余裕があるのね、これだから男は困るのよ、精神年齢が低くていらっしゃる。


 コケも採取して〈洞窟の迷宮〉を出ると、〈トカ〉さんが嬉しそうに待っててくれる。


 「おぉ、今日も上手く狩れたようだなぁ。 なかなかやるな。 夫婦もんだから、息が合うんだろうなぁ」


 お生憎様あいにくさまですが、私達は離婚寸前ですので、息は全くあっていません。

 状況が状況だけに、仕方なく一緒にいるだけです。


 「ははっ、〈トカ〉さんが教えくれた、〈化け鼠〉の動きが上手くまっただけですよ」


 〈まだ夫〉の言うとおりだわ、だけど私が槍で上手に刺したと、言っても良いんじゃないの、自分が刺したように言うのはおかしいよ。


 「そうか、そう言われるとわしも嬉しいのぉ。 そうじゃ、あんたら秘密は守れるか」


 〈トカ〉さんが声を潜めて、私達に何か提案してくる感じだ、他に頼る人がいないのだから、危険な匂いもするが〈トカ〉さんに賭けてみよう。


 「えぇ、守れますとも。 この村で味方は〈トカ〉さん〉だけですもの」


 「そうか、そうだなろうなぁ。 秘密って言うのは、あんたらが〈化け鼠〉を二匹狩って、儂に一匹渡すってことよぉ。 それを儂が村長に隠れてさばくのよぉ。むろん、あんたらにも良い事があるぞ。 服もほしかろう、肉も食いたかろう」


 「はい。肉が食いたいです」


 「しー、大きな声を出したらいけん」


 「服も手に入るのですか」


 「そうじゃ、〈化け鼠〉の毛皮で作った服はかなり丈夫だぁ。 怪我を防いでくれるもんだぁ。 そんなペラペラの服で〈洞窟の迷宮〉に潜らせるのを、儂は見たくはないのぉ」


 私は今着ている服が所々破けそうになっているから、〈まだ夫〉はどうしてもお肉が食べたいので、再度〈洞窟の迷宮〉に潜って〈化け鼠〉を狩ることにする。


 人間の欲とは恐ろしいものだ、私達は自発的に全身全霊をかけて狩をしたから、思いのほか簡単に〈化け鼠〉をもう一匹追加して、〈トカ〉さんに手渡す事が出来た。


 「おぉ、早いのぉ。た だ無理だけはしちゃいけん。 そこはわきまえることだぞ」


 「分かりました。 命が惜しいので、決して無理はしません」


 私が無理をすることはないけど、〈まだ夫〉が心配だ、ゲームのように考えている気がする、結婚する前からなんにでも真剣みが少し薄いのよ、コイツは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る