第7話 敏捷と運

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 俺達は〈化け鼠〉を簡単に狩ることが出来るようになった。


 〈トカさん〉に行動特性を教えて貰ったことと、毛皮の服の防御で余裕が出来たことが大きい、〈化け鼠〉に噛みつかれても毛皮が上手くすべると言うか、皮がたるんで体まで歯が届かないんだ。


 十匹以上の〈化け鼠〉を村長に渡した後に、村長から毛皮の服が俺達に支給された、移転前から着ていた服があまりもボロボロだからだろう、死なないで良くやっていると思われた可能性もある。


 〈直ぐ元妻〉は「これで男からジロジロ見られなく済むわ」と嬉しそうにしている。


 「えっ、そんなに見られていたのか」


 〈洞窟の迷宮〉への行き帰りしか村の中にいないため、村人とはあまり会ってはいないんだ、ホントかよ。


 「そうよ。 こっちが見ている時は目をらすけど、背後からギンギンに見てくるわ。 〈あなた〉も一度通り過ぎてから後ろを振り返ってみれば」


 俺は〈直ぐ元妻〉が言ったように、畑で働く男を振り返ってみると、ギンと目が合ってしまった、俺と目が合った途端に目を逸らしやがったが、〈直ぐ元妻〉の後ろ姿をネットリと見てやがったんだ。


 〈直ぐ元妻〉は村の女達と比べると、過酷な労働をしてこなかったせいか、愛らしい顔とモッチリとした体をしていると思う、要は男好きする女に見えているんだな。


 「君が言ったことと違うぞ」


 「はっ、何が違うのよ」


 「毛皮の服でも見られているぞ」


 「うわぁ、最悪だわ。 頼むわよ、私が襲われないように〈あなた〉が守ってよね」


 「あぁ、任しておけよ」


 俺はがらにもなく大きな事を言ったのは、〈能力〉が上がったからだ。


【自分】

―――――――

等級 ― 3 

―――――――

生命 ― 18 ×1.3= 23.4

体力 ― 17 ×1.3= 22.1

魔力 ―  9 ×1.3= 11.7

――――――――――――――――――

経験 ― 11

―――――――

技能 ― なし

―――――――


 ステータスを見ると、〈素の能力値〉が〈生命〉〈体力〉とも上がっているし、等級も上がったから、俺は村一番の〈能力〉値を誇っているぞ。


 一対一の戦闘では負けない自信がある。


 毎日〈化け鼠〉と死闘を繰り返しているんだ、〈技能〉はまだ生えないが槍もかなり上手くあつかえるようになった、〈直ぐ元妻〉も〈能力〉が上がっているのだから、二人なら数人で襲われても何とかなるだろう。


 だけど〈経験―11〉になっているのに、〈等級―4〉へ上げられないのは、〈経験―16〉が必要な気がする。

 その次はぐーんと上がって〈経験―256〉だったらキツイな、要は前の数値の二乗だ。


 ゲームの様であっても、世の中はそんなに甘くないんだな。


 今日は〈化け鼠〉のきが悪いのか、〈洞窟の迷宮〉をいくら進んでも遭遇そうぐう出来なかった。


 「はっ、分かれ道があるわ。 どっちへ行くの」


 「また運の良い君が、槍を倒して決めてくれよ」


 「はぁ、〈あなた〉と結婚したのは微妙だけど、そんなどうでも良い事で言い争う気にはなれないわ」


 〈直ぐ元妻〉の槍は左の道を示したので、左の方へ進んでみたが、しばらく歩くと行き止まりだった。


 「はぁ、行き止まりになるとは、思わなかったな。 引き返すしかないわね」


 「ちょっと待てよ。 こんな風な行き止まりは、絶対に怪しいぞ。 隠し通路があるはずだ。 少し探してみよう」


 「えぇー、周りを見てもただの岩にしか見えないわ。 ゲームじゃないんだよ」


 俺は〈直ぐ元妻〉を無視して、行き止まりの周辺を槍のお尻の方で、突きまくった。

 〈直ぐ元妻〉も、あからさまに不機嫌な顔で嫌々壁を突っついている、これで何も無かったら、すごい文句を言われてしまうぞ。


 かなりの時間をかけて洞窟を調べたが、何も見つけることは出来なかった。


 もう引き返すしかないなと、〈直ぐ元妻〉へ言おうとした時に、〈化け鼠〉が現れて俺達へ跳びかかってきた、唐突とうとつな遭遇ではあったが、俺達は何とか〈化け鼠〉の方へ槍を構えることが出来た、狩の習熟度が上がっているのだろう。


 「はっ、どこから湧いたのかしら」


 〈直ぐ元妻〉も疑問を考えるほど余裕を持っている。


 しかし、そんな時が一番危ないんだ、〈化け鼠〉は上手く体をひねって、〈直ぐ元妻〉の槍を踏み台として、洞窟の天井を蹴りスピードの乗った攻撃をしかけてきた、利用する場所は壁だけじゃないのか。


 だけど俺の〈能力〉は伊達だてじゃない、すぐさま槍を真上にかかげて〈化け鼠〉を突き刺してやった。


 ステータスに表示はないけど、〈敏捷びんしょう〉も上がっているのだと思う。


 「ふぅー、ちょっと危なかったな」


 「そうね。 狩の最中に余計な事を考えちゃいけなかったわ」


 おっ、えらく素直に認めたな、前もこうだと良かったのにな。


 「まあ、これから気をつければ良いのさ。 それに天井まで跳ぶとは思わないよ。 当たり前だけど、〈化け鼠〉も必死なんだな」


 〈化け鼠〉が蹴った天井をふと見上げたら、少しだけ違和感を覚えた、土が落ちた部分の端の方に他より黒い部分がある、やけに目立つな、俺にはそれがスイッチのように思えて仕方がない。


 「肩車をするから、あの黒い部分を槍で押してくれよ」


 「えぇー、まだ諦めていないの。 どう見てもアレはただの岩だよ。 黒い部分なんてそこら中にあるじゃないの」


 「そう言うなよ。 だまされたと思って押してくれよ」


 「ふん、しょうがないわね。 でも試すのはこれが最後よ」


 「もちろん、それで良いよ」


 〈直ぐ元妻〉を肩車にすると、毛皮越しなのに、ムッチリとした太ももの感触が伝わってくる、村の男達は〈直ぐ元妻〉のお尻を見ているのだろう、村の女達は皆ガリガリに痩せているからな、俺もかなり溜まっているのか変な気分になってしまいそうだ。


 「押すわよ」


 〈直ぐ元妻〉が黒い部分を押したら、「ゴゴォ」と大きな音がして、行き止まりの壁がちょうど人が通れるほどに開いた。


 俺は吃驚びっくりして茫然ぼうぜんと開いた箇所を見ていたと思う、探していたくせにあるとは、心の底では信じ切っていなかったのだろう。


 「うわぁ、本当にあったわ。 固まっていないで、早く降ろしてちょうだい」

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