第3話 木の槍とゲーム

◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 薄暗い洞窟をそろそろと歩いて行くと、岩肌が湿った箇所が見えてきた、そこにこんもりと薄緑色の部分がある、これが採取しろと言われていたコケなんだろう。


 俺達は持たされた茶色の袋に、木の槍で削り取ったコケを入れてみた、このコケがとても貴重な物とは思えないが、薬の原料にでもなるのか。


 コケを採取した後に、俺ははっと思いついて、立ち止まってしまった。


 「この洞窟に、どれくらい潜っていたら良いんだ。 コケだけじゃダメなのか」


 「ふん、魔物を仕留めるまででしょう。 それまでは帰って来るなって感じだったわ」


 「そうか。 魔物ってどんなんだろう」


 〈噂をすれば影がさす〉とよく言うけど、洞窟の先の暗がりから黒い影が湧くように出てきた。

 本当に現れやがったぞ、声が聞こえていたのかも知れない。


 「うわぁ、汚くて大きな鼠。 あれがそうじゃない。 〈あなた〉、気合よ」


 「くっ、君も戦うんだぞ」


 「や、やってやるわよ」


 〈直ぐ元妻〉は声も体も震えているけど、俺も変わらない、こんな所でこんな事をやらされるなんて、昨日の朝までは全く想像出来なかったな、チビリそうになるよ。


 魔物は大きなねずみのような化け物だ、ガチガチと大きな歯を鳴らして、俺達を真っ赤な燃える目でにらんでいる。

 普通の動物でないのは、怪しく光る目と禍々まがまがしい気配をまとっていることで、初めて見た俺達でも容易に区別がつく。


 〈鼠の化け物〉は五十センチ以上あるのだが、敏捷性に優れている、素早い動きで洞窟の壁を駆けて、俺の横っ腹を食い破ろうと跳んできた。

 くっ、距離を詰められ過ぎて、すでに長い槍はで突くことが出来ない、必死に槍で叩こうとするが簡単に交わされて、洞窟の床を叩く結果になる、その槍の上を伝わって〈鼠の化け物〉が俺の肩に噛みつきやがった、「ぎゃー」このままじゃ肩が食い千切られてしまうぞ。


 俺は肩の痛みに耐えかねて、洞窟の床をゴロゴロと転がった、それでも〈鼠の化け物〉は俺の肩に噛みついたままだ。

 体に比べて何てあごの力が強いんだ、このままじゃ骨まで噛み砕かれてしまいそうだ。


 「きゃー、肩から血が出てるわ。 槍で刺すから、動かないで」


 〈直ぐ元妻〉はブルブルと震えながら、へっぴり腰で恐る恐る槍を構えている、肩に激痛が走ってはいるけど、〈直ぐ元妻〉に槍を刺してほしいとは思えない、高い確率で俺の腹を刺されてしまいそうだ。


 だけど〈直ぐ元妻〉は刺して来やがった、恐怖につき動かされたんだろう、俺が慌てて腹を逃がしたのは言うまでもない、〈直ぐ元妻〉の槍は〈鼠の化け物〉の後ろ脚を偶然にも刺し貫いている。


 「や、やったわ。 今がチャンスよ」


 良く言うよ、俺が動かなかったら最悪だったんだ、俺は死に至る大大ピンチだったんだぞ。

 しかしチャンスなのも確かだ、〈鼠の化け物〉は痛みのためか、「キィー」「キィー」と耳障りな鳴き声を放ちながれ、槍を抜こうともがいてる、俺は槍を拾いあげて動きが鈍った〈鼠の化け物〉のどてっ腹に槍を思い切り突き刺してやった。


 「ギィギュウー」と断末魔の声をあげて、〈鼠の化け物〉はピクリともしなくなった。


 怪我を負ってしまったが、何とか生き延びることが出来た、ただこれが明日からも続くとなれば、いずれは詰んでしまうだろう、何か打開策を考える必要があるな。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇


 私達は命からがら仕留めた〈鼠の化け物〉を、苦労して〈洞窟の迷宮〉から運び出した、〈まだ夫〉が肩に怪我をしていたので、時間がかかったんだ。


 「おっ、もう狩ってきたのか、割と早い方だ。 肩の怪我だけで済んで運も良いな。 明日も頑張れよ」


 〈洞窟の迷宮〉を出てきた時には、もう村長はいなかった、見張り番の男が座っていただけだ、その男もちょっと意外そうに私達を見ている、出てくるとは思わなかったのかもしれない。


 〈まだ夫〉が肩に怪我を負っているので、さすがに男が〈鼠の化け物〉を持ってくれたが、私達もコケが入った大きな袋を運ばなければならない、私の体力はもう枯渇寸前だよ。


 村長の家で〈鼠の化け物〉とコケの袋を渡すと、使用人の女性がイモと水が入った木のバケツを渡してくれた、イモは昨日の倍の大きさだ、〈鼠の化け物〉を狩ったからその報酬なんだろう。


 「うむ、良くやった。 明日も一匹は狩るように」


 私は〈まだ夫〉の肩に、どう見ても泥にしか見えない薬を塗ってあげている、匂いも泥だ。

 瘦こけた少女が、さっき無言で置いていったものだ、たぶん塗りぬりぐすりと思い塗ってはみたけど、違ってたら、ごめんなさい。


 はぁー、これで治るとはかなりの楽天家でも思わないだろう、運よく治るとしてもかなりの時間がかかるはず、それと鼠は怖い感染症を持っている可能性が大だ。


 それ以前に怪我をしていない状態であれだけ苦戦したんだ、明日はもっと苦戦するに違いない、下手をしないでも死があぎとを開けて待っている、くぅー、こんな所で死にたくないよ。


 「ステータス オープン」

 「オープン ステータス」

 「ステータス 開示」

 「スターテス 表示」


 〈まだ夫〉が何やらブツブツとつぶやいている、絶望しておかしくなったんだ、私を置いていかないでよ。


 「ずるいわ。 一人で行かないでよ」


 「はぁー、何にも分からない世界の、一体どこへ行くんだ」


 「そうだけど。 ブツブツ言っていたから、頭がおかしくなったと思ったんだ」


 「あぁー、失礼な事を言うなよ。 RPGゲームみたいな事が起きているんで、試していただけだよ」


 「ふーん、ゲームね。 男の子には流行っていたわ。女の子はあまりしていなかったな。 それでステータスって、どう言う意味なの」


 「ステータスか、どうだろうな。 能力って意味だろうな」


 「えっ、呪文じゃないんだ。 〈能力開け〉って、言っていたの。 変なの」


 「変って言うな。 少し変だとは思うけど、どうにかしないとヤバイのは、君も分かっているだろう」


 「きゃー」


 「何だ、どうした」


 「目の前に透明な物があるのよ。 私の目がおかしくなっちゃったよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

浮気による離婚協議中に、過酷な異世界へ転移してしまった 品画十帆 @6347

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ