第4.5話 幕間:主任といっしょ

 捜査会議を終えた氷室と翔平は、連れ立って昼食を摂りに出かけた。

「何が食べたい?」

「そうっすね~」

 翔平はそう言ううと真剣に悩み始めた。

 回転寿司もいいし、カレーもいい。ラーメンが食べたい気もするし、あ、いっそ焼肉とか……と言った体である。

 氷室は苦笑した。

 翔平は瘦せているが、なかなかの大食漢だ。好きな物を奢ると言った手前、今更引っ込みがつかない。

「やっぱ、主任といっしょならなんでもいいっ!」

「なに彼女みたいなこと言ってるんだ」

 言いながら、氷室はホッとした。

 確か、日比谷公園の向こうに大盛りのパスタの店があったはずだ。そこへ連れて行こう。


  *   *   *


 店は昼時ともあって大盛況だった。

 少しだけ待って直ぐに入れたのはラッキーだったと言っていいだろう。

 席に着くと、隣のテーブルのナポリタンのケチャップの香りがして食欲をそそる。

 メニューを見ると、どれも並盛から1㎏のメガ盛りまであった。

「すごっ! この値段で1㎏食べれるなら、俺、メガにしちゃう! 主任もそうします?」

「──俺は並でいいよ」

 並盛でも350gである。

 翔平は勿体ないと言いながら、メニューを選んだ。

 カルボナーラと散々悩んで、定番のナポリタンである。

 氷室は明太子を注文した。

「人は見かけによらないな。お前がこんな大食いだなんて、誰も知らないだろ」

「そうっすね~。俺、なんでも大きいの好きなんですよ。これも征服欲?」

 違うだろうと思ったが、そこはスルーすることにした。

「大きいと言えば、翔平、中型の免許を持っているって竹さんが言ってたが」

「あれ? 言ってなかったですか?」

 翔平はきょとんとして氷室を見る。

「聞いてない。驚いたよ」

「あっ、早い。もう来た」

 翔平の前に、巨大な皿が置かれる。ウェイトレスの手が若干ぶるぶると震えた程だ。

 翔平は有難うと言うと、にこにことパスタを眺めた。

 直ぐに氷室の前にも明太子パスタが供される。

 パスタの上の明太子の赤、小松菜の緑が目にも美しい。

 翔平はいただきますと手を合わせると、ぐるぐると麺を巻き取り頬張った。

「ん~っ、美味しい! 美味しいですねー!」

 そう言う翔平の顔は幸せそのものだ。

 氷室も少し明太子を崩して混ぜる。真っ赤な明太子が半分火が通ってピンク色に変った。

 それを少し巻き取って口へと運ぶ。

「ん。美味いな」

「ねー! 主任といっしょだと、美味しい物食べれて幸せ」


 まったくコイツは……。

 

 そう思いながらも、嬉しそうな翔平の顔を見ていると、連れてきてやって良かったと思えるから不思議だ。

 それから暫く、パスタを堪能しながら、子犬のような翔平の日常の話を聞かされた。

 最近読んだ漫画の話。

 お笑い番組の話。

 SNSでバスっている話題。


 彼女にフラれた話。


 おかげで、中型免許の件はすっかり忘れてしまった。


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