飢饉の贄 5
「マジか……村の連中は揃って下衆しかいなかったのかよ」
篠原から――というよりも図書館にいたばあさんから聞かされた藁将村の下衆い過去を教えられて、あたしは唾を吐き出してやりたい気持ちになった。
「下衆しかいないなら滅びて当然か……あのばあさんの評価は正当だったわけだ」
「まぁその評価もばあさんの主観が入ってるけどな」
「それでも自分の先祖が住んでいた村じゃん。空襲を善行なんて言ってたんだから……主観が混ざっていても嘘はないと思うけどね」
そうなると、あの面具の男が口にしていた言葉も納得出来る。口惜しいだろう……自分の片割れにされた所業を思うと……。
「だが、それを知ったところでどうしようもない。この村から出る方法もなければ成仏させる方法もない。おまけに空はどこにいるかわからねぇ、海もまだ生きてるかどうかもわからねぇんだからな」
お手上げだよ、と投げやりな篠原だけど、あたしは少し違う。柊の弟子の一人である由乃って人はこの事件に関わってくれなかったけど、メルが関わることで救われるものがいると発言していた。愛染茅って霊能力者もそうだけど、こういう連中はどうして人を煙に巻くような発言を好むかねぇ……拗らせた中学生じゃないんだからさ……。
「村からは出られないんでしょう?」
「無駄だ。鳥居と柵の外に出ても気付いたら村に戻ってる。おまけに村の中じゃあの面具野郎がうろついて当時の虐殺が繰り返されてる」
「虐殺、ね……正当な人殺しだと思うけど?」
とりあえずメルがこの状況を打破出来る鍵になっているなら見つけ出すしかない。由乃って人がソラの生存を疑っていなかったということを考えると、メルも生き延びているはずだと信じたい。そもそも幽霊とか過去の残滓みたいなものに殺されるなんて非常識もいいところだ。
「おい、どこ行く気だ」
「上に戻る。メル――この状況を打破する鍵を海が握ってるはずだからさ」
「あのメソメソしてる陰気くさいガキが?」
「メソメソして陰気くさくてウジウジしてるけど、あんたともあたしとも違うタイプだよ。人の痛みがわかる……良い子だからね」
「はん。俺とお前さんは悪い子ってわけだ」
「パチ狂いが良い子なわけあるか……つーか、高校生に金をせびってんじゃねぇよ。馬鹿な大人だらけになったら世も末だっつーの。そんで、あんたはどうすんの? あたしとしちゃ……囮がほしいんだけど」
「このシケモクが最後でね、よぉ〜く味わってから行く。とにかく海を見つけてここに放り込みゃあいいんだろ?」
「まぁいいか。じゃあ……少ししたらここに戻るわ」
役に立ちそうにない駄目大人を見限ったあたしは地上へ戻った。
見つからないように入り口の細工を済ませ、ステルスゲームみたいな動きで家の隙間を縫う。幸いにも面具の男は松明を振り回して自己主張してくれているから、気付いたら背後に、なんてことがないから有り難い。とはいえ、こっちも懐中電灯で動き回るから自己主張は一緒だ。
「メル……簡単にくたばってないでよ……?」
御札もカメラも霊能力も無いまま、懐中電灯だけの明かりを頼りにあたしはまた狂気の村へ戻った。
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