救われるモノ 2

 静岡県で男性一人が行方不明に。現代の神隠し事件と話題に?!

 

 情報収集の一環でカストリ雑誌にも手を出してみたけど、読んだ人の脳みそを馬鹿にする麻薬みたいなくだらなさ満載だったから即座に捨てた。こんな雑誌に夢中になるなら文学の一冊や二冊を読んだ方が、格段に頭が良くなる。

 カストリ雑誌に払った無駄金にごめんしつつ、バスに乗って神曲を目指す。世界がクソ暑くても黒いマスクは欠かさず、色々と道具を詰め込んだバッグを抱え、平日の穏やかなバスの揺れに背中を預ける。そうこうしているうちに神曲は近付き、ちょっとしたバス旅は終わる。

『もうすぐ着くから』

 時代に取り残された携帯電話をわざわざ使っている親友にメールする。今は高校だから連絡網なんて阿呆なグループとかしかないだろうけど、社会人とかアルバイトとかを始めるならスマホじゃないと色々面倒だ。

 とはいえ、メルがスマホを嫌う気持ちはよくわかる。だけど、それはスマホのくだらない面だけを見ているに過ぎない。人を不幸にするためにスマホを作ったわけじゃないだろうし、スマホで人生を豊かにするか、自分の人生をぶっ壊すかは本人の使い方次第だ。メルの場合は、馬鹿な奴らのコメントなんて見なければいいだけだ。馬鹿の相手なんて人生と寿命の無駄なんだから。

 神曲近くのバス停に到着し、あたしは神曲に向かって歩く。日傘が無いと歩けない暑さに苛々しつつ、道を曲がって進んで入り組んだ路地を通って神曲の裏玄関に到着だ。すると、入れ違うように郵便の人がポストから去って行った。おそらく、ポストの中身は目当てのものだ。

 時刻は十一時。あたしが来ると同時に届くとは神様も気が利いてる。

 チャイムを鳴らし、メルの応答を待ったけど、何故か返事がない。もう一度鳴らし、ノックまでしても反応がないから、あたしは屋上を見上げ――柵を檻みたいに掴んでいるミホがいた。

「ミホ! メルもそこにいる?!」

 そう叫んだけど、あの引きこもりはこっちを見ようともせずに柵から離れて姿を消した。無視したのか、それともあたしに気付いて下りて来るつもりだろうか。

「さっさと開けてよ……クソみたいに暑いんだからさぁ……」

 催促してやろうと玄関の把手を掴むと――ガチャリ、と気持ちの良い音と一緒に開いた。あたしが来るから開けておいたのだろうか。だとしたらメルらしくない不用心さだ。

「メルー? 勝手に入れってわけー?!」

 そう叫んでも返事がないもんだから、あたしはかぶりをふって玄関に入り――。

 ドシャッ……!!

 後ろから音がした。固いものよりも中身が柔いものを落としたような嫌な音に振り返らされたあたしは――ミホを見た。

「いやっ!!」

 砕けた頭から噴き出した肉片が足下にまで届き、陥没した眼孔からズレ落ちる右目があたしを凝視し、糸の切れた操り人形みたいな四肢は折れ曲がったまま痙攣を繰り返している。その光景に突き飛ばされたあたしは玄関に尻餅をつき、全身が絶句の悲鳴をあげた。

「あっ……あぁ……」 

 あたしを見ていたミホの右目はデロリ、と地面に出会し、痙攣していた四肢は最期に魚のような反りを起こして沈黙した。おぞましい目の前の光景が両目に焼き付けられ、全身から力が抜けていく。もう後退りも悲鳴を上げることも出来ないままミホだったものと向き合い――。

「マコちゃん?! 大変なの……美穂がスマホを持ったまま……!」

 今更になって階段を駆け下りて来たメルがあたしを見て寝ぼけたことを抜かす。あたしの真後ろにミホは飛び降りて来たのに――。

「あれ……?」

「美穂まで行方不明になったみたいで……いくら電話しても繋がらないの……!」

 メルはそう捲し立てるけど、あたしは目の前に広がっていたはずの光景が何一つ見当たらないことに気付いてそれどころじゃなかった。飛び降りて来たはずのミホ、散らばった肉片と血の臭い……あまりにも生々しい光景が無くなるなんてことがあるだろうか。

「マコちゃん……?」

「……行方不明だろうね。ソラはともかくミホはヤバいかもよ……」

 困惑するメルに説明する前にポストの中を確かめさせたあたしは、約束通りに届いたSDカードを連れてリビングを促した。

 あたしのためにキンキンにしておいてくれたリビングの涼しさをまずは享受しながら、持ち込んだ栄養ドリンクをがぶ飲みする。たったあれだけで寿命をいくら奪われたか知らない。某からの宣戦布告か警告かは知らないが、この誠様に喧嘩を売ったようなものだ。

「借りは返してやる……クソッタレが……」

「借り……? 何があったの?」

 メルにとって楽しくないだろうけど、見せつけられた幻覚を説明した。当然、メルが言っていたようにミホは家におらず、自殺もしていない。

「ミホのことは後で……先にSDカードを」

 心配したところでどうしようもないんだから、と持って来たUSBのカードリーダーにSDカードを差し込んでパソコンと接続した。中身をさっさとパソコンへ送り、しょうもないタイトルが並ぶファイルの中から編集されていない動画を見つけた。

「見つけた。この未編集の動画が件の廃村だ」

「……どこまで廃村の場所を説明してくれるかな」

「最悪……それが無くても正確なヒントがあれば見つけられるさ。『アクア・ランサー』もスマホも使えば絶対に見つけられるはず……」

 あたしは迷いも躊躇いもないままその動画を再生した。

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