第13話


 一方そのころ、フィトたちはやっとのことで草原にたどり着いていた。


 カルパとクエタは精も根も尽き果てた様子で、安全を確認すると、そのまま草の上に倒れ込んだ。


 フィトも、そんな2人を見て安心し、フーッと1つ息を吐くと、草の上に仰向けで寝転んだ。


「プッハハハハッ」フィトが笑った。「なんだ、今の!超大群だったな」


 見ると胸元にはカミキリムシがいて、フィトはそれをそっと捕まえて逃がした。


「笑えないよ。虫で溺れそうだった。あれはあれで臨死体験だよ」


カルパが息も絶え絶えに、言った。


「でも結局、助かったじゃないか。それに、見て」


フィトが手に持っていた物を掲げた。


「手錠?」


「うん、光ってたから持ってきた」


「やったー。さすがフィト。あの警官が持ってたやつ?そんなのに気づく余裕、全然なかったよ」


「これは、カルパの説の後押しになるんじゃないか?」


「うん、重大なサンプルだね。やっぱり〈神格物〉は、町の中の方が探す価値がありそうだ。


 でも、他の物を探そうにも、町にはもう行けないかな」


「オレ1人なら大丈夫だろ。探し物は全部オレがするよ。カルパたちは秘密基地でゆっくり作戦を練ってくれてたらいい」


「秘密基地…だね。あそこが本当に秘密基地になっちゃうね」


 そんな話をしていると、クエタのドローンが帰ってきた。


「あれ?アエラス、解放されたのか?」


 フィトがそう言うと、それを聞いてクエタが重々しく起き上がった。


 そしてドローンに吊り下げられている網からスナック菓子を取り出して食べ始めた。


「よく食べられるな」


カルパは自分が食べたときのことを想像して、気持ち悪そうな顔をした。


「―でも、アエラスが解放されたってことは、もう僕たちを捕まえる気はないのかな?」


「じゃあ、戻って他のも探してみようか!」


「いや、今日は元々偵察だけのつもりだったし、もうやめとこう。それに八百屋を変に刺激して、また追いかけられでもしたら困るからね」


「じゃあ、秘密基地だ。手錠でどのくらい残り時間が増えるのか知りたい」


「そうだね。あと、これまでの情報を整理しないと」


「よし、そうと決まれば早く行こう」


「落ち着きないなぁ。まだ回復してないんだから、ゆっくりさせてよ。クエタだって―」


 そう言ってカルパが見たクエタは、普段どおり涼しい顔をしてスナック菓子を頬張っていた。


「…そうだった。まともな人間は僕だけだった…」


 カルパは力を振り絞って立ち上がると、ゆっくりモビリティのある方へ歩き出した。


 3人は、モビリティまで横に並んで歩いた。


 その正面には、キーヤの町が広がっていた。


 フィトとクエタの家はこの町の中にはないが、3人の通っている小学校がある、勝手知ったる町だ。


 けれどこのとき、フィトとカルパにはいつもの町が違って見えていた。


「あの中にどのくらい〈神格物〉があるんだろうね」


カルパが不安そうに言った。


 町1つからどれだけ〈神格物〉が見つかるかは、自分たちの残り時間を計算する上での目安になる。


 もし少なかったら、そう考えると、カルパは胸が苦しくなるのを感じた。


 一方フィトは、そんなカルパの問いかけに、いかにも楽天家という返事をしていた。


「なんだか、ゲームに出てくる宝箱みたいでワクワクするな」


 そしてクエタは、そんな対照的な2人の横で、いつも通りスナック菓子を食べていた。


《手錠込みの残りの〈恩恵〉 ー 5日間と13時間41分(分?)》

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