第9話
彼らの町は、名前をキーヤと言った。
東西に広がる農場ばかりが大きく、町自体は小さい町だった。
農場で働く人たちのベッドタウンで、時間帯によっては賑わうが、昼間は多くが農場へと出払っているため、町中を歩く人は少なかった。
フィトたちは、そんな町の中央付近にある広場に行った。
この広場は、町で何かをするときにまず集合して話をする、3人の町の拠点だった。
小さなモニュメントがあるだけの広場で、昼間はいつも、まばらながらに人がいた。
けれどもこの日は、お馴染みのキッチンカーこそいるものの、他には誰一人いなかった。
「妙に静かだね」
違和感を覚えてカルパが言った。
「―いつもこんなに静かだったっけ」
「たまたまじゃないか?みんなの用事が重なるときもあるだろ」
疑うことを知らないフィトが答えた。
「―それで?光っているものを探すんだっけ?」
「うん。僕の考えが正しければ、〈神格物〉は町でも見つかる可能性が高いんだ」
「どこか目星はついてるのか?」
「ううん。サンプリングを兼ねているから、目標は全部見ることだよ。
命が懸かっているんだ。他人の家だろうと遠慮はなしでいこう」
「了解」
「あっ、あともう一度確認するけど、僕たちに起こっていることは、絶対に誰にも話しちゃダメだからね。たとえ噂程度にでも、情報が拡散されるわけにはいかないんだから」
カルパは町へ来るまでに、現状の特異性を2人に語っていた。
〈霊験〉において、他の2人のそれはまだ未知数だが、カルパが受けたものだけを見ても、隠す理由は十分にあった。世界中の公的な情報を得た中で、機密情報もたんまり知ってしまったからだ。
そのことは、各機関や集団、または個人に、身柄ないし命を狙われる理由として申し分ない事象だった。
「大丈夫。絶対に言わない。その方が物語の主人公っぽいし」
事前に話していたので、フィトの承諾は早かった。
返答に付け加えられた軽率さは気になったが、フィトが話さない理由としては信用に足る発想だった。
結果カルパは言いかけた小言を飲み込んで、話を続けた。
「……OK。じゃあ手分けして探そう」
そう言ってそれぞれの持ち場を決めようとしたとき、大人の声が割り込んできた。
「何を手分けして探すって?」
見るとそこには八百屋がいた。
そしてその隣には、この町で数少ない警官の1人もいた。
「―紛失物なら、警察に届け出たらどうだ?まあ、届け出ると同時に捕まってしまうけどな」
八百屋はあからさまに喧嘩腰だった。
「どういうこと?」
カルパの問いかけに、八百屋が愉悦をにじませながら答えた。
「この度、被害届を出したんだ。お前らの罪は周知の事実だからな。当然受理されたよ」
それを聞いて、警官が申し訳なさそうに頭を下げた。
「悪いな。仕事だから断れなかったんだ。
大人しく捕まってくれないか。保護者の方々には連絡してあるから。
明日から夏休みだし、1週間の勉強合宿だと思って」
「1週間?そんなの死んじゃうよ!」
カルパからつい大きな声が出た。
いつも冷静な印象があったカルパからだ。
その上、勉強合宿に1番抵抗がないであろう人物だったため、大人2人は一瞬あっけにとられた。
けれども八百屋は、そんなことで及び腰にはならず、すぐに前かがみになって怒声を放った。
「大袈裟なことを言うな!まるでこっちが理不尽を押しつけているみたいに!お前らがしてきたことの報いだろうが!」
煽られたことを根に持っていたのもあるのだろう。その言葉にはかなり気持ちが入っていた。
ただ、こちらの3人にも、素直に従えない事情があった。
そのためカルパはすぐに逃げることを考え、どこからがいいかと辺りを見渡した。
すると広場には、四方八方から急に人が集まってきていた。その人たちの視線は3人に向けられていて、逃がすまいという様子が見て取れた。
八百屋と示し合わせていたようだった。
元々広場に人がいなかったのも、八百屋が働きかけたからに違いなかった。
「子どもの教育のためだって言ったら、みんな快く協力してくれたよ」
八百屋が、3人を追い込まんと言った。
しかし、快くは嘘だろう。
確かに捕まえる気満々な人もいたが、心苦しそうに遠巻きに見ている人も中にはいて、大人の事情も多少はあったに違いなかった。
そこにつけいる隙はないだろうか。
カルパが考えていると、フィトがスッと前に出た。
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