第2話 ちょっと照れ屋なあなたの彼女

 あたしの、ぶす。

 ぶすぶすぶす!

 おおぶすーーーーッ!


 なんで、なんで、なんでよぉ!


 なんで三宅先輩との初デートを自分から言い出しちゃったのよーーーー!

 なんで三宅先輩の部活の日にそうだと気づかないで予定入れちゃったのよーーーー!

 なんでなんで、その先輩との初デートに合わせる服がこんなだっっっさいのしかないのよーーーー!


 ……はあ。とてもユウウツ。


 相変わらず漢字が書けないけど、あたしの気分を示すにはその言葉がとてもぴったりなので、どうしても使っちゃう。

 友達の真希ちゃんにも、「そろそろゆかりの私服のだっせえのをどうにかしてあげねーとなw」と言われる始末。くやしーけど、ほんとにその通りだ。「あんたの私服のダサさに比べたら、あの声優のダサさだってまだ可愛く見えるくらいだからなーw」とまで。


 そ、そこまで言わなくていいじゃん!


 確かに今みるとピンクが可愛いからって頭から靴下までピンク一色でそろえる必要なかったと思うし、大人びた色にしたいからって紫に挑んだり、なんかカッコ良さそうなロゴ入りのTシャツなんて、買ってもらっちゃったりはしてたけど!

 でもさ! そこまでいうことないじゃん! カッコつけたりかわいくしたかったり、するくらい、いいじゃん!


 ……うまくはいってないけど。


「えーん、真希ちゃーーん」

「わかった、わかったからw」


 真希ちゃんは困り顔でわたしをショッピングモールに連れてってくれた。そこにはたくさんのお洋服がせくしぃなマネキンに着せつけられてて、見ててまぶしいばかりだった。


「ど、どれを着れば。。。」

「とりあえずゆかりは自分のセンスを信じちゃダメ」

「えっ……」


 ひどい。


「いままで自分を信じてダサかったんだから、ここは最初から最後までわたしの言うことを聞く。いい?」

「は、はひ……」


 それからあたしは、とにかくたくさんのお洋服を着せられては、ぶかぶかじゃないかとか、きつくないかとか、色味がどうだとか、とにかくいろんなことを言われた。「ゆかりはなー、意外と着やせするからなー」なんて、言われてしまうと、すこしむっとなってしまう。いいじゃん。美味しいものを少し食べすぎるくらい! そう言うと、「いやあ健康的ってことだと思ってくれればいいよ」とそっけなく返されてしまった。


 そうかな。そういうもんかな。

 えへへ。

 でも、真希ちゃんのうらめしそうな目つきがちょっとこわい。


「ゆかりは意外とブカがいいかもなー」

「そうなの?」

「うん。ぴっちりしすぎると目に毒」

「毒」

「毒だね」

「そう、なんだ」

「もうあんたは三宅先輩ひと筋でいくんだから、余計な虫は排除しておくに越したことはないよ」

「虫?」

「虫嫌いでしょ?」

「う、うん」


 真希ちゃん、でもあの、目こわいよ?


「とりあえずこんなところかな。あとは髪とメイク」

「ふえっ?」

「まさか服だけで終わりだとでも?」


 えっ、あっ、あの。


「そ、そんなことないよ!」

「よろしい。では来なさい」


 結局あたしの数ヶ月分のおこづかいが、スズメの群れのようにバタバタと飛んでいっちゃったことだけは、言ってもバチが当たらないかなと思ってる。

 そして、勝負の日──のはずだった。


「えーっと、えっと?」


 なんで。なんで、なんで……


 せっかく髪の毛のセットの仕方、ちゃんと覚えたと思ったのに。

 せっかくお洋服のコーデの仕方、覚えたと思ったのに。

 せっかくお化粧の仕方だって、覚えたと思ったのに……


 ドタンバになって肝心なことを忘れちゃう。あたしってば、ふわっとパーマを掛けたはずの髪の毛はハネてばっかりだし、お洋服はなんか鏡を見れば見るほどチグハグに見えるし、お化粧だってやり過ぎてるのか足りないのかわかんなくなっちゃってて──気がついたら遅刻してた。


 さすがに今回泣くのはがまんした。


 でも、はずかしくてはずかしくて、泣きそうなくらい、はずかしかった。


 それでも三宅先輩は、部活あがりで、シャワーを浴びてて、少し藍色が腕に残ってたけど、ちゃんと身ぎれいにしてて、のんびり待っててくれてた。


「おまたせ……」


 だいじょぶかな、そっけなくなってないかな……

 ほんとはね。ほんとは、ものすごく緊張して、ものすごく楽しみにしてて、ものすごく背のびしたかったんだけど。

 背のびしようとしたつま先が、踏ん張り切れてなくて、ぷるぷるしてるのが、自分でもわかるくらいに、自信がなくて。


「坂本さん」


 でも三宅先輩は、さわやかに笑顔でやってきて、真っ先におしゃれをほめてくれた。


 なんか、うれしかった。

 でも三宅先輩も、なんだかはずかしそうに周囲を見回していた。それからいきなり近づいて来て──


「えっ、ちょっ、先輩?」

「ちょっときれいすぎてて、ほかの人に見せたくないかも」


 もー、先輩ったら。

 これじゃあデートにならないよ。


 はずかしいなんて、言ってらんない。あたしはさっそく先輩の手を取って、言った。


「ほら、デート行きますよ」


 そして、心のなかで真希ちゃんにありがとうを言うのも忘れなかった。

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