第85話

「か、佳世……っ!!」




桜子の制止の声も虚しく、佳世が零に詰め寄った。




「アンタ!この前桜子を轢きかけてた男でしょう!?どの面下げてここにいるわけ!?」



「は?」




突然女学生に怒鳴られた零は、状況を掴めていないようで目を見開いていた。




こんな顔もするのかと妙に感心してしまったが、今はそれどころではない。




案の定、道行く人の視線をしっかりと集め、更には東雲の呆れたような溜め息まで聞こえた。




「……怖いもの知らずというのか馬鹿というのか、思いきったご友人ですね」




……嫌味だろうかそれは。




「佳世、落ち着いて!もう良いから!!」



「離しなさい桜子!貴女は良くてもあたしの気が治まらないわ!」




今にも零に殴りかかりそうな佳世を必死に押さえ、桜子は頭を下げた。




「ごめんなさい!悪気はないんです!ちょっと気が立ってるだけで!」



「あ、あぁ……」




唐突すぎて状況の呑み込めない零は、桜子たちの背後に立つ東雲に目を向ける。




視線を受けた東雲は表情を崩さず、機械的に言った。




「その方の話を聞く限り、大尉がこちらの方を轢いたとか轢かないとか」



「轢いた?いつの話だ」



「忘れたの!?信じらんない!」



「佳世!」




女学生と軍人。




その妙な組み合わせが注目を集めたのは言うまでもない。




しかし佳世は周囲の視線など気にもせず、堂々と零に指を突きつけた。

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