第84話

しかし、ピリピリとした睨み合いは東雲が桜子に視線を向けたことによって、強制的に終了した。




「そう言えば、本日は藤ノ宮大尉がご一緒です」



「はい!?」




びくりと肩を震わせ、不自然過ぎたと身を竦める。




「そ、そうなんですか……」




あの夜会の夜以来、零の姿さえ見ていない。




ほっとするとも寂しいとも、自分でも理解できない感情を見透かされたようで思わず動揺した。




「その……藤ノ宮様は、お元気ですか?」




狼狽えながら尋ねる桜子をじっと見つめ、東雲は微動だせずに言う。




「ご本人はそう振る舞っておいでです」



「そうですか……」




東雲の視線を受け、桜子はかすかに眉を寄せる。




この人と喋っていると、自分が人形と話している気分になってくる。




感情が見えないためか非常にやりにくいのだ。




どうしようかと頭を悩ませていた時、東雲の背後からコツコツという規則正しい音が聞こえた。




「―――東雲。なに油を売っている。戻るぞ」



「大尉」



「……あ」




現れた長身の男に声をあげたのは桜子ではなく、その隣に立つ佳世。




咄嗟にまずいと思ってしまったのは、佳世に千鶴子のことは話したが零のことは言っていなかったからで。




嫌な予感に、思わず桜子が何か言いかけるも―――。




「あーーーーっ!!」




桜子の姿に目を丸くした零が何か言う前に、佳世の叫びがそれを遮った。

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