第82話

未だ不安げな顔をする佳世の袴の袖を引っ張る。




佳世は渋々といった体で頷きかけ、ふと桜子の背後を見た。




そして、訝しげな顔をする。




「……ねぇ、桜子。貴女、軍人の知り合いなんて、いる?」



「軍人……?」




いるには、いる。




一瞬零の顔が浮かび、慌てて打ち消したが。




真剣に悩んでいると、佳世が桜子の腕を掴んだ。




「なんか軍服着た男がこっち見てる……って、こっち来た!」



「ええ!?」




思わずつられて佳世の指差す方を向く。




日常の中で軍人と関わる機会なんて、そうそうあるものではない。




なるべくなら関わりたくないというのが本音。




恐る恐る振り向き、桜子と佳世は互いの腕を掴み合った。




しかし。




「あ……」




こちらへとやって来る人影に桜子は目を瞬かせた。




色素の薄い髪と瞳。




端整な顔には感情がなく、たとえるのなら人形のよう。




桜子は咄嗟に記憶を探り、その名を呟く。




「東雲、さん?」



「御無沙汰しております。先日は失礼しました」




無表情で頭を下げる青年―――東雲明の姿が、そこにあった。

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