伍章 何カガ変ワリシ日々
第80話
子爵家の夜会から数日が経った。
良く言えば平穏、悪く言えば代わり映えしない日々。
そんな日常を送りつつ、今日は藤ノ宮家には寄らず、父から頼まれた絵を届けるために桜子は出版社へと向かっていた。
大判の封筒に入った原稿を抱え、家からさほど離れていない大通りにある出版社へと向かう。
暇だからという理由で佳世も同行し、到着するまでの道すがら、桜子は彼女に藤ノ宮家に出入りしていることを話した。
なんとなく話す機会を逃し、今頃になってしまったのは申し訳なかったが、佳世はそんな細かいことは気にしない。
「……はぁ?」
話を聞き終わり、佳世はきょとんと目を見開く。
「ちょっと、桜子?」
「うん?」
「あたし今、貴女が藤ノ宮家に出入りしてるって聞いたんだけど」
「……ええ」
こくりと頷く。
佳世は真顔で足を止めた。
そして、桜子の肩を掴み―――。
「桜子!貴女絶っ対騙されているわ!!」
往来のど真ん中でそう叫んだ。
「佳世……っ!?」
道行く人の視線を集めても、佳世は桜子の肩を揺さぶることを止めない。
「だって!なんで!どうしてよりにもよって藤ノ宮なのよ!おかしいじゃないの!轢かれたこと覚えてないの?死にかけたじゃないの!騙されてる、絶対騙されてるわ!」
「か、佳世……」
ガクガクと前後に揺すられつつ、桜子は慌ててその口を塞いだ。
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