第79話
桜子が去った後、零は小さく息を吐いた。
「お大事に、な……」
この歳になってからめっきり掛けられなくなった言葉に思わず苦笑が漏れる。
最初は、財力目当ての女だと思っていた。
自分の周りにいた、藤ノ宮の名にすり寄る女たちと変わらないと思っていた。
けれど自分のことを殴り、贈り物を突っ返し、それでも平然と屋敷に出入りしてはこんな場所にやって来る女だ。
どう考えても明らかに、今まで関わってきた女たちとは何かが違う。
気が抜けてしまったかのようにこぼれる笑みを手で覆い隠し、零は肩の力を抜いた。
肩の痛みを隠すため詞季子から逃げてこの場所にやってきた。
そこで密会している男女がいると思ったら、覚えのある声に不思議と身体が動いていた。
こんなところに男を漁りにきたのかと呆れ返ったが―――あの娘、手が震えていた。
そんなことを思い出し、ふと隣を見る。
あるはずのないぬくもりに違和感を覚え、鋭く痛む肩を押さえ、零はゆっくりと瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます