第78話

反応を楽しんでいるような表情に、どきりと鼓動が高く跳ねる。




挑発的なのに、どこか艶やかな笑み。




今までの冷酷な表情からは想像もできない表情。




思わず惚けそうになり、桜子は慌てた。




小さく頷き、背を向けようとして―――ふと思いとどまる。




「あの!」




ゆっくりと零がこちらを見た。




それさえ絵になるなんて、なんと憎らしい。




「お身体、お大事に!」




それだけ言って背を向ける。




零がどんな顔をしたのか、そんなの怖くて見れやしない。




静寂の世界から華やかな世界へと舞い戻り、桜子は千鶴子の姿を探す。




途中で「零様、どこにいらっしゃるの?」と言う女の声も聞こえない振りをした。




頭の中では交わした言葉が繰り返し流れる。




ぼんやりしながら、それでもようやく桜子は千鶴子を見つけた。




そのことに心底ほっとするも、頬に宿った熱はなかなか消えてはくれなかった。

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