第76話

「おかしな女だな、お前は」



「おかしなって……」



「おかしな女だ」




あんまりな言葉につい、桜子は眉を寄せた。




零は素知らぬ顔で視線を逸らす。




そして、ぼそりと呟いた。




「……どうして、受け取らなかった?」




何を、と問う前に桜子の頭に先刻のことが浮かぶ。




零から突き付けられた贈り物。




それを桜子は要らないと言って突っ返したのだ。




「ど、どういう意味ですか」




確かに、贈り物を突き返すのは相手に失礼だ。




しかし、あれはいわゆる『口止め料』のようなもの。




物で釣られるような女だと思われるのは癪だし、何よりも貰う理由がない。




「お前が初めてだ。受け取らなかったのは」




解せないというように零がこちらを見る。




「女は皆、同じだと思っていたんだが……お前は違うのか?」




真顔で尋ねられ、桜子は大層反応に困った。




それは果たして、本人に尋ねるようなことなのか……?




わけがわからないと思いつつ、桜子は首を横に振る。




「……他の方のことは存じません。でも、私はただ当たり前のことをしただけです。あれだけのことで何かをいただくことは、できません」



「お前の中で『人助け』は当たり前のことなのか」



「当たり前というか……まぁ、そうでしょうか?」




改めて訊かれてもよくわからない。




しかし、零は至って真面目な顔をしている。

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