第68話

汚れた服と鈍い痛みの残る足を引きずり、桜子は人気のない場所を探す。




ようやく見つけたのは、庭園よりも少し奥まった場所にあるベンチだ。




うっすらと灯籠のような灯りが灯り、ぼんやりと辺りの風景が浮かび上がっている。




そこに恐る恐る腰掛け、ほっと息を吐いた。




……疲れた。




場違いにも程がある。




ここは自分のいるべき場所ではないと、そう強く実感した。




自分だとて没落したとは言え華族だったはずなのに、おかしなことだ。




そう苦笑するも、先程の光景が頭にこびりついたまま。




口で心配する素振りを見せても行動には移さない。




他人のことなどどうでもいい、という思いが透けて見えたことに桜子は驚きを隠せない。




皆が皆親切というわけではないが、転んでも手を差し伸べてくれる人たちに囲まれていた。




だから、手の届く範囲にいて何もしないというそれが受け入れ難い。




桜子自身、困っている人がいれば思わず手を差し伸べてしまう。




もしかしたら自分も、あんな風になっていたのだろうか……と、およそ現実からかけ離れたことを考えていた時、不意に背後から声を掛けられた。

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