第55話
零の言葉の意味は数日後に解明された。
いつも通り千鶴子に呼ばれ、藤ノ宮家の門扉を叩き、白木の後について千鶴子の元に行こうとしていた矢先のこと。
「白木」
「お帰りなさいませ、零様。お早いお帰りですね」
千鶴子の部屋へと行く途中、背後からやってきた零に白木が頭を下げた。
今日も隙なく軍服を纏い、凍えるような瞳をしている。
「用があってな。……おい、娘」
零の視線が自分に向けられていなければ、桜子は今すぐに回れ右がしたかった。
しかし、実際にはそんなことを出来るわけがなく。
「……なんですか」
「付いてこい」
嫌ですと反射的に答えそうになり、慌てて口をつぐむ。
無言で白木に助けを求めれば、「奥様には私からお伝えしておきます」と、ある意味いらない優しさが返ってくる。
面と向かって言われてはとぼけることなど不可能で。
桜子は連行される罪人の心境で零の後について行く。
……何か呼び出されるようなことをしただろうか?
歩きながらしばらく考え、桜子は顔を覆った。
(どうしよう……ありすぎる……)
最初に殴ってから先日の騒動まで、後悔の連続。
自分の行動を思い出し青くなっている間にも、零は屋敷を出て庭へと出る。
そして、屋敷からはさほど離れていないところで立ち止まった。
一体何をされるのかと怯える桜子を振り返り、彼はおもむろに懐から小さな包みを取り出した。
薄紅色の紙に包まれた細長い包みは女性が好みそうな色合いと柄で、背景に雪景色、それも絶対零度の猛吹雪が似合う零にはひどく不釣り合いだった。
目を点にしてそれと零を見比べていると、その包みが無造作に差し出された。
「?」
「借りだ」
首を傾げる桜子に素っ気ない声が落ちる。
「この前は世話になった。だが、それだけだ。借りは返すからそれ以上のものを望むな」
……言われていることの意味がわからなかった。
だが、包みを押し付けられるように渡された瞬間、理解した。
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