第52話

しばらく考え、白木が頷いた。




「それでは、申し訳ありませんがお願い致します。手の空いている使用人に声を掛けておりますが、如何せん人数が足らず……」




広大な屋敷の中と庭のどこかにいる猫を探すのに割ける人員はそう多くないだろう。




桜子は快く頷いた。




「わかりました。お庭に入ってもよろしいですか?」



「はい。お願い申し上げます」




白木の言葉に頷き、桜子は屋敷の外へ向かった。











「ローレンシアン!ローレンシアン……!」




言い慣れない外国語の名前を叫びながら、桜子は美しく整えられた屋敷の庭を歩き回っていた。




普段であればじっくりと見て回りたいところだが、今は時間がない。




庭園での捜索をしていた使用人と代わり、植え込みの密集する区域を探し回る。




だが、いくら呼んでも黒猫の姿はなかった。




「ローレ……っ、痛ぅ……」




それどころか慣れない外国語の名前に、先程から何度舌を噛んでいるのか。




広大な庭園に逃げ込まれたら見つけることなど不可能に近い気がする。




「どうしよう……」




外へ逃げてしまったら、今度こそ見つけることは不可能と考えていい。




悲しむ千鶴子の顔が浮かび、思わず桜子は叫んだ。




「鈴鳴っ!さっさと帰って来なさい!!」




つい家にいた時の調子で叫んだ、その瞬間。




「……っ、げほっ」




何故か、誰かの咳き込む声を聞いた。

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