第49話

「桜子さん!」




いつものように屋敷に入ると、千鶴子が嬉しげな顔で駆け寄ってきた。




「見てくださいな!やっと完成致しましたのよ」



「奥様」




抱えられた浴衣に目をやり、桜子は微笑んだ。




「良かったです。お役に立てましたか?」



「勿論よ!貴女のようなお友達を持てて本当によかったわ!」




そう言う千鶴子は本当に嬉しげで、見ているこちらも嬉しくなってしまう。




ここ数日、布と針と格闘していた姿を思い出し、くすりと笑う。




安堵する桜子を余所に、自力で浴衣を完成させたことが余程嬉しかったのか千鶴子は上機嫌だ。




「自分で一から作ることは楽しいわね。そうだわ!零に見せびらかしてこようかしら?」




久しぶりに聞いたその名にどきりとする。




「部屋に籠りっぱなしでは気も滅入るでしょうし、怪我が治っていないのなら寝ていることしか出来ないものね」




(……怪我?)




「あ、あの!!」




零が部屋に籠っているというのは知っている。




だが、怪我?




そんな話は聞いていない。




「怪我って……藤ノ宮大尉のお加減は、その、悪いのですか?」




なるべく冷静に訊いてみるが、千鶴子はきょとんと桜子を見て、それから納得したように頷いた。




「そう言えば、桜子さんには言っていなかったわね」




いつものふわりとした空気を消し、千鶴子は自分の肩を指差した。




「本人は隠していたつもりなのでしょうけど、肩に刺し傷があったの。今回倒れたのはそれが原因なのよ」

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