第48話

では失礼します、と折り目礼儀正しく頭を下げて去る東雲の姿を見送り、桜子はしばらく呆然としていた。




(……何の用だったのかしら……)




少なくとも、ここで引き返すのなら大した用事ではなかったのだろう。




……だが、何故自分に声を掛けたのだろうか?




姿を見れば屋敷の人間でないことは一目瞭然のはずなのに。




首を傾げながら桜子は門の中へと足を踏み入れる。




しかし、その姿をたった今立ち去ったはずの男が見つめていた。




影のようにひっそりと立つその姿は儚く美しいが、感情の欠落した面が正体不明の気味悪さを誘う。




桜子の姿が門の内側に消えるのを見届け、やがて彼は胸元から一枚の紙を取り出した。




そこに書かれた文面を目で追い、平淡な声で呟く。




「……日崎、桜子」




一瞬だけ物騒にひそめられた瞳は再び色を失い、俯くようにして伏せられた。

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