第47話

そこでようやく合点がいった。




零が軍人だということは知っていたが、階級までは知らなかった。




よく知るその名に桜子は慌てて首を振る。




「申し訳ありません。私はお屋敷の人間ではないので、詳しいことはわからないんです」



「屋敷の人間ではない?」




桜子の言葉に訝しげな顔をし、青年は桜子をじっと見つめた。




「女学生ですか」




袴姿にハーフブーツは海老茶式部―――女学生の代名詞。




だが、あまりにも不躾な問いに桜子は眉根を寄せ、最早何度繰り返したかわからない言葉を告げる。




「そうです。奥様に目をかけていただいております」



「夫人に……」




何の感情も伴わない声に桜子は居心地の悪さを感じた。




平民が侯爵夫人と関わるなど普通ではないし、零の反応が一番的確だ。




だが、この青年はまるっきり興味なさげな顔で頷いた。




「そうですか。……あぁ、別に自分は怪しい者ではありません。帝国陸軍少尉、東雲しののめあきらと申します。藤ノ宮大尉殿の下で動いております」




眉根を寄せた桜子の様子に勘違いしたのか、丁寧に自己紹介を始める東雲に更に戸惑い、




「日崎桜子と申します……」




とりあえず、そう返した。




しかし、そこから先をどうすれば良いのかわからず、桜子は恐る恐る東雲を見上げる。




「……あの、人をお呼びしましょうか?ご用なんですよね……?」



「……いえ。結構です。目的は果たしましたので」



「は、はぁ……」




にこりともせず意味のわからないことを返され、桜子はただ頷くことしか出来なかった。

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