第46話

零が倒れたところに居合わせてから数日。




桜子は一応、零のことを心配していた。




目の前で気を失い、その後真っ青な顔で運ばれていったのだ。




これまでの零からは想像もできないような姿を目撃してしまい、気にするなという方が無理だ。




何が原因なのかは知らないが、ここ数日部屋から出ていないというし、もしかしたら悪い病気なのではないかという考えまで浮かんでくる。




千鶴子や白木は心配することはないと言っているため、桜子も納得しようとした。




だが棘が胸に突き刺さったような感じが抜けず、もやもやとしたままだ。




そんな日々を送っていたとある日、いつもと同じように藤ノ宮邸に出掛けた桜子は唐突に門の前で声をかけられた。




「藤ノ宮大尉は御在宅ですか」




起伏のない平淡な声に振り向けば、軍服姿の青年が立っていた。




軍帽に隠れてよく見えないが、色素の薄い髪と瞳に目を奪われる。




人形のように整った顔をしており、感情のまったく窺えない表情が更にそれに拍車をかける。




(藤ノ宮大尉……?)




それは誰のことだろう、と桜子は困惑した。




青年を見れば、無表情で桜子のことを見つめている。




無機質な物を見るような眼差しに息を呑み、二人の間に何とも言えない空気が横たわる。




しばらくそうしていたが、やがて青年が「あぁ」と小さく呟いた。




「ご存知ではありませんか。藤ノ宮大尉―――藤ノ宮零殿のことを申し上げているのですが」



「あ……」

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