第40話

それから、時々屋敷に招かれてはお茶を飲みつつ、桜子は千鶴子に浴衣の縫い方や風呂敷の使い方を教えた。




代わりに刺繍のやり方やテーブルマナーなどを教わり、それなりに楽しい時を過ごしていた。




時折女学校の帰りに白木が迎えに来て、決まった時間を屋敷で過ごす。




不思議と穏やかで落ち着いた時間だったが、桜子はいつもあの青年、藤ノ宮零の姿を探してしまう。




悪いのは殴った自分であり、謝罪しなければならないのは分かりきっているのだが、逢うことが恐ろしい。




あの視線に晒されることを考えると足がすくむ。




だから零の不在を知っては、意気地無しと思いながらもほっとしてしまうのだ。




そんな間にも桜子の存在はすっかり藤ノ宮邸に馴染んでしまい、使用人とも仲良くなった。




時折厨房の賄いをこっそりくれたり、掃除の効率的なやり方なども教わることができた。




それなりに穏やかな時間を過ごし、そんな日常にも慣れてきた頃。




しかし世の中、そんなに上手くは出来ていないことを桜子はまざまざと悟った。

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