第33話
愕然とする。
今日一日で、一体何度信じられないことを聞いているのだろう。
夕闇の濃くなった路上で呆然と目の前の男を見上げる。
たった今、桜子の言葉を全否定した男は濃い茜色の中で息を失うほど美しかった。
「助けたかったから助けた……ならば、助けたくなかったら助けなかったということか。……傲慢な言葉だな」
冷え冷えとした瞳。
冬の吹雪のような眼差し。
それでも、こちらを貫く視線から目を逸らせない。
「助けたと言っても、助けられた者はそれを望んではいないかもしれないのに、そのようなことを言うな」
「……そういうわけじゃありません」
「ならばやはり打算か」
「違います!」
(……どうして)
どうして、ここまで言われなければならないのか。
ほぼ初対面だというのに、何故こんな風に悔しさに唇を噛み締めなければならないのだろう。
それでも桜子は耐えた。
相手は華族で軍人で、こちらはただの平民の女学生。
下手をすれば父や女学校、桜子の関係する様々な人に被害が及ぶ。
華族にとってみれば、平民など取るに足らない下級階級。
そう自分に言い聞かせるも、次の零の言葉に桜子はとうとう理性を失った。
「所詮、金に群がる鼠が。……穢らわしい」
「―――っ」
次の瞬間。
忌々しげに吐き捨てられた言葉に続き、ひどく乾いた破裂音が美しい夕日の中に響き渡った。
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