第22話

幾重にも丁寧に礼を言い、白木は鈴鳴を抱えて去って行った。




後日お礼をすると言ってくれたが、丁重にお断りした。




謝礼目当てで助けたわけではなく、桜子自身が決めたことだ。




何はともあれ、飼い主が見つかって良かった。




とは言え、急にがらんとした両手を見つめ、何となく物寂しくなる。




「行ってしまったね……」




ぽつりと父が呟き、桜子は頷く。




少しの間とは言え、楽しかったのだ。




ほとんど寝ていただけだが、それでも家族が増えたようで嬉しかった。




「家族が見つかったのだもの。良かったのよね……」




言葉とは裏腹に肩を落とす娘の姿に父は微笑んだ。




「猫なら、飼っても良いよ?」



「……。ううん。もう、十分」




手に入れてしまえば、失った後が辛い。




なら、始めから手に入れなければ良い。





……その時、それだけしか理解しなかった自分は愚かだったのだろうか。




それ以上のことを理解したかったと後悔するのは、もっとずっと後のことで。





数日後、藤ノ宮家から白木が桜子を迎えに来たことが、すべての幕開けであった―――。

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