第21話

予想通り、鈴鳴は縁側で眠っていた。




桜子が近づいても逃げる素振りも見せず、大人しく腕に抱かれる。




そのまま門まで戻ると、父と何かを話していた白木が驚愕の目を向けてきた。




「ローレンシアンが大人しく抱かれている……っ!?」




そんなに仰天するようなことなのかと首を傾げつつ、桜子はその名に妙に納得してしまった。




『ローレンシアン』とは、やはりどこかの裕福な家の猫なのだろう。




普通、そんな名前など思い付かない。




鈴鳴を抱えたままゆっくりと白木に近付き、差し出す。




「この仔でよろしいですか?」



「はい……!まことにありがとうございます。これで奥様も……」




心底ほっとしたように言い、白木が鈴鳴を受け取ろうと手を伸ばしてくる。




しかし、それまで桜子の腕に大人しく抱かれていた鈴鳴、もといローレンシアンが突然暴れ始めた。




白木の手に渡った途端、腕や頬を引っ掻き、抵抗する。




「鈴鳴!」



「ローレンシアン!」




思わずといった体で互いに違う名を叫べば、どちらの名に反応したのかはわからないが黒猫は動きを止め、金の瞳を爛々と光らせたまま桜子を見つめる。




「……ご主人様が見つかってよかったわね」




小声で囁けば、そんなことは関係ないとでも言うようにふいっと顔を背けられ、少し哀しかった。

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