第19話

何が起きたのかと桜子は慌てて台所から外へと出た。




家々が建ち並ぶ細い通りに面している小ぢんまりとした門に向かい、そこで桜子は絶句した。




およそ、このような家屋群の建ち並ぶ場所にはあまりに場違いな黒服の男性が一人、品よく立っていたのである。




壮年と呼ぶのが相応しく、上品と言うのが当てはまる初老の男性。




まるでどこかの屋敷の使用人のようだ。




呆然と立ち尽くしていれば、桜子の姿に気付いた男性が静かに話し掛けてきた。




「日崎桜子様にございますか?わたくし、藤ノ宮家の使用人をしております、白木しらぎと申します。この度は突然の来訪、誠に申し訳ありません」



「い、いえ……あの、何の御用でしょうか……?」




(……藤ノ宮?)




どこかで聞いたことがあるような名に首を傾げる。それもつい最近。




咄嗟に思い出せず、更には白木と名乗った男性の慇懃な態度に戸惑う。




そうしている間にも異変を感じたのか、近所の人々が玄関や門から顔を覗かせこちらを見ているのが見えた。




それに気付き、桜子は慌てて白木を見上げる。




「あの、こんなところではなんですし、中へどうぞ……」



「いえ、ここで構いません。お気遣い、ありがとうございます」




優しげながら完璧な笑みを返され、桜子はますます反応に困った。

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