第16話

はらはらと様子を見れば、薄く目を開いた猫が煮干しに首を伸ばし、少し匂いを嗅いでから……食べた。




それが引き金となったのか、皿に盛られた煮干しを凄まじい速さで平らげ、満足したのか水を飲み始める。




その様子にほっとし、桜子は胸を撫で下ろした。




「よかった……」




思わずへたり込めば、隣で苦笑が聞こえた。




「拾ってきたのかい?珍しいね」



「うん。……なんだか、見棄てられなくて」




怒られるかな、と横目で伺うが、父は笑うだけで何も言わなかった。




「世話をするなら好きにしなさい。でも、仕事場には入れないでおくれ」



「本当?」




その言葉に顔を明るくし、桜子は頷いた。




「わかったわ、約束します。……それじゃあ、この仔を洗って来るわ」




座蒲団にじゃれつく猫を捕まえようと腕を伸ばす。




しかし、猫はするりとその手をかわした。




「こら、待ちなさい……!」




器用にすり抜ける猫を追いかけると、鈴の音色が涼しげに響く。




「飼い猫かい?」




父の言葉と同時に、桜子はようやく猫を捕まえた。




「そうみたい。……飼い主が見つかるまで、良い?」



「好きになさい。お前のしたいようにおし」




最早口癖に近い父の言葉に、桜子は満面の笑みを浮かべた。

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