第13話
―――桜子が藤ノ宮家の自動車に轢かれかけてから、三週間ほどが経っていた。
その間、特に身体の不調もなく、恐怖と怒りも幾分か和らいだ。
普段通りの日常を終え、桜子は一人で帰路につく。
佳世は今日、絶対に提出しなければならない課題を済ませていないらしく先生に呼び出されていた。
そのため今日は一人である。
教本の入った風呂敷を胸の前で抱え、曇天の下を足早に抜けて行く。
空を仰げば、もうじき雨が降りそうな天気だった。
早く帰って洗濯物を取り込まなければと思い歩みを更に速めていると、どこかでチリン、と鈴の音色を聞いた気がした。
「……?」
桜子は足を止め、思わず周囲を見回す。
季節に似合わない、涼やかな音だ。
妙に気になって音の正体を探せば、前方で黒い尾が揺れ、はたりと落ちるのが見えた。
そろりと近寄り、恐る恐る道の端を覗き込む。
すると薄汚れた黒猫が一匹、ぐったりと横たわっているのを見つけた。
弱々しく尾が揺れ、鈍い金色の瞳が桜子の姿を映し、また閉じられる。
その首には真紅の紐が結ばれ、銀の鈴が付けられていた。
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