第12話

「お前の家族構成は?」



「は……?」




今度は運転手が戸惑う番だった。




仕える家の人間が使用人にそんなことを尋ねることなど滅多にない。




というより、ないに等しい。




それが冷淡と名高い藤ノ宮零の口から出たのならば、尚更だ。




「妻と娘がおりますが、それが何か……?」




恐る恐る告げる運転手の言葉に零は淡々と言葉を重ねる。




「一族郎党、路頭に迷いたくなければ余計な口は叩くな。今は昔とは違い、女の値段はさほど高くない」




平然と発せられたその言葉。




それの意味するところを理解した瞬間、運転手の顔が一気に青ざめる。




「……申し訳ございません。出過ぎたことを申しました」



「無駄口はいい。急げ」



「畏まりました」




強張った声で運転手が答えた。




痛いほど静まり返った車内に紙のめくる音だけが静かに響く。




運転手に非情な言葉を投げ付けた零は、しかし一度もその視線を上げることなく、氷のような眼差しを手元へと注ぎ続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る