第11話

「………若君」




恐る恐ると言った体の運転手の声に、ふじみやれいは手元の書類から目を離さずに応じた。




「なんだ」



「……よろしかったのですか?」




運転手の言葉が何を指しているのかわからず、書類をめくりながらぞんざいに聞き返す。




「何がだ」



「先ほどのお嬢さんのことです。怪我などしていなければいいのですが……」




その言葉の意味が一瞬、零には本気でわからなかった。




しばらく黙考し、運転手の言いたいことを理解する。




脳裏にちらりと浮かぶのは愕然とした表情の女学生。




危うく轢き掛けるところだったのか轢いたのかはわからないが、平民の娘ごとき心底どうでも良い。




死んではいないのだから問題はないだろう。




そう思い、零はその存在を記憶から消した。




そして、変わらぬ速度で書類をめくる。




それを幾度か繰り返した後、ようやくその形の良い唇から言葉が吐き出された。

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