第9話

「藤ノ宮って、あの華族の!?」



「そうだよ、その藤ノ宮だ。今のは恐らく息子だろうなぁ」



「華族……」




桜子は呆然とその言葉を反芻する。




正直、未だに動揺が収まらない。




嫌な動悸に胸が痛い。




瞼の裏には人を危険に晒し、なのに謝罪のひとつなく去って行った男の姿がはっきりと焼き付いている。




どうしようもないやりきれなさに拳を握ると、痛ましげな視線を送られた。




「やめな、お嬢さん。相手は華族だ。それも軍人。痛い目を見るのはあんただよ」



「でも、死にかけたのはこの子なのよ!?それなのにあんな……っ!」



「佳世、落ち着いて。私は大丈夫だから」




やりきれないものを胸に抱え、わだかまる想いを無理矢理に呑み込み、桜子は拳を解いた。

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