第7話

「小娘、邪魔だ。どけ」




……一瞬、聞き間違いかと思った。




男の言葉を頭の中で反芻するが、生憎意味は変わらない。




こういう場合、謝罪とか気遣いとか、そういったものが最初にくるのではないのだろうか?




唖然として言葉も出ない桜子から目を離し、軍服の青年は運転手に尋ねた。




「故障か」



「も、申し訳ございません。ハンドルを取られました」



「急げ。参謀本部へ飛ばせ」



「で、ですが……」




運転手が戸惑ったように桜子に視線を向ける。




だが、淡々とした冷たい声が鼓膜を震わせた。




「聞こえなかったか?車を出せと言っている」




素っ気なく言い、青年は未だ立ち竦む桜子に再び視線を向けると目を眇め、




「邪魔だと言っただろう、小娘。轢かれて死んでも責任は取らんぞ」




そこまで言われては言い返す気力も湧かなかった。




ただ、どうにか身体を後退させるだけ。




「ちょ、あんた!それが人を轢きかけておいて言う台詞!?」



「出せ」




駆け寄ってきた佳世の言葉を無視し、自動車は突っ込んできた時同様、瞬く間に通りの向こうに消え去った。

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