第4話

「―――でも、嫌よねぇ」




佳世がそう呟いた時、二人は桜子の自宅近くの大通りを歩いていた。




際立って賑やかというわけではないが、ある程度栄えた穏やかな通りだ。




着物に洋装、人力車に街鉄。




様々なものが混ざりあった風景は既に見慣れてしまい、違和感はない。




そんな風景を眺め、佳世が悔しげに言う。




「文化はこんなにもごちゃごちゃなのに、どうして一貫して女は家庭に入れなんて言うのかしら?女は男に従っていればいいなんて、そんな考え方は嫌いなのに」




佳世の一番嫌いな言葉は『男尊女卑』。




それを公言しては説教を食らっているが、それでも彼女はめげない。




その強さが桜子には何よりも羨ましく、そして誇らしい。




この時代、女性に自由はない。




職業婦人やモガなど、昔に比べれば女性の自由は広がったように思えるが、それでもそれはほんの一握りだけ。




女学校だとて女性の自立を促すものではなく、あくまで花嫁修業の一環だ。




在学中に縁談が決まって退学する級友もいる。自由恋愛なんて夢物語。




佳世にしてみれば窮屈で、桜子には一抹の寂しさを感じてしまう。




佳世の言葉に改めて目の前の光景を眺める。




華やかできらびやかなのに、どこか危うげな雰囲気を纏う街。






それが、大正という時代。

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