第4話 風鎧都市:リンドル
一時間ほど歩き続けて街道に出ることができた俺たちは、さらに道に沿って進んでいき、やっとのことで街が見えるところまでやってきた。
遠目に見える街は、高い壁に囲まれており堅牢そうだ。
おそらく魔物などに攻められないようにする為なのだろう、返しも付いていた。
そして、外壁の中央には大きな門があり多くの人や馬車が行き来しており、とても活気があるように見える。
またここが少し小高い丘であるからか、街の内部も少し見えた。
温かみのある街並みが広がっており、それらの中心あたりに一際大きな建物がある。
少し大きめの建物なら所々にあるのだが、それらよりも更に大きい。
何の建物なんだろう…
「お、あれは……」
「ようやく着いたな。ここがオレ達が今拠点にしてる街、風鎧都市:リンドルだ!」
「やっと戻れたよ〜」
「……やっぱり、『沈黙の森林』はリンドルから少し遠い。」
「結構大規模な都市なんだね。城壁も高くて頑丈そうだよ。」
「まぁ、大きい方ではあるな!……王都はもっとでかいけど。」
「こ、これより大きいんだ……すごいなぁ。」
「ほら、早く入るよっ!」
そうしてリンドルに辿り着いた俺たちは、街の中に入る為に正門で手続きをすることになった。
近くで見ると、更に大きく感じるなぁ…この門。
見上げてると首が痛くなりそうだ。
遠くからでも分かるような威光を放つその巨大な門は、今はそこを行き来する行商人や旅人のために開かれており、そこの下では様々な服装をした人が列をなしていた。
早速街に入ろうと俺たちが門の前の行列に近づくと、門付近に居た兵士らしき人物の1人がこちらに気付き、話しかけてきた。
門前にちらほら見かけた兵士たちは統一された、薄い緑色を帯びた不思議な色合いの
金属鎧を装備している。
…どんな素材を使えばあんな色合いになるんだろう?
「旅の方ですか?ようこそ、リンドルへ───って、なんだ、〈灰竜の
(…灰竜の脊?)
「お、マルタさんじゃねえか!今日はあんたが門番の日だったか。残りも頑張ってくれよ!」
「当たり前ですよ!……って、おや?そちらの方はどなたで?」
「あー、こいつはな───ちょっと耳を貸してくれ。あまり事を大きくしたく無い…」
「…!何か重要なことがあるんですね。分かりました」
そう言うとアッシュは門番のマルタさんと少し離れた所まで行き、何やら話し始めた。
うーん、少し暇だし、今さっき聞いた〈灰竜の脊〉って言う単語のこと2人に聞いてみようかな?なんか3人と関係ありそうだし。
「…セラにリュート、さっきマルタさんが言ってた〈灰竜の脊〉ってなんのこと?」
「ああ〜、あれはあたしたちのパーティー名だよ。みんなで考えた自信作なの!」
「……みんなの名前の一部に寄せて作った。実際に、魔物にも『
「へぇ〜、そんな感じで名付けられたんだ!」
〈灰竜の
それから少し会話していると、どうやら話がついたみたいでアッシュとマルタさんが戻ってきた。
どうやら、3人は冒険者として登録してあるので許可はもちろん下りているそうだが、俺の場合は身分証明できるものすら無いため少し面倒なことになる───はずだった。
が、そこでアッシュが俺は『精霊の迷い子』であると言うことを打ち明けたところ、マルタさんの所属する『風鎧騎士団』の騎士団対応規律に迷い子に対する対応の方法があり、俺は特例でリンドルに入ることができた。
「…あなたは、『迷い子』だったんですね。記憶が無くなって辛いでしょうが、めげずに頑張ってください!〈灰竜の脊〉の皆さんもとても優しい人達ですから助けてくれるはずですし、何かあったら私達『風鎧騎士団』も頼ってくださいね!」
「ありがとう、マルタさん!記憶を取り戻すの、頑張るよ。」
「はい!それでは許可も下りましたので、どうぞお入りください」
「はーい、じゃね〜マルタさん!」
「……また会おう」
「皆さんも、また時間があったら会いましょうね!……あっそうだ、アッシュさん、そこの方が『精霊の迷い子』なら、あれはまだしてないんですか?」
「あー、アレな……この後落ち着いたらする予定だ。」
「大事なことだもんね!」
「……そうだね。」
「『アレ』???」
そうしてマルタさんと別れを告げた俺たちは、高い壁に囲まれたリンドルに入って行った。
……『アレ』って何のことなんだろう。気になるな…
門をくぐると、そこにはあの小高い丘から少しだけ見えた、煉瓦造りの綺麗な街並みが広がっていた。
今俺たちが歩いている大通りには様々な店が開かれており、威勢の良い声をあげながら客を引き込もうとしている。
街を歩く人も、マルタさんと同じような若干薄緑がかった金属鎧を着込んだ風鎧騎士団の人もいれば、アッシュが着ているような革製の軽装鎧、セラのようなローブを纏っている人もいる。
さらには、頭の上に動物の耳のようなものがついている人もいた!
…え、アレどうなってるの!?
気になりすぎて、たまたま横を通り過ぎた少女の頭の上でピコピコと動く猫耳を目で追っていると、それがみんなにバレてしまった。
「あれ、どうしたの?…そんなにあの
「え!?あっいや、そういう訳じゃなくて……」
「あー、多分こいつが気になってたのは獣人族についてじゃないか?ほら、記憶なくしてるってことはその事も覚えてないだろうし。」
「なるほど、そういうことね〜…じゃあ説明してあげる!」
そう言うとセラは意気揚々と説明し始めた。
彼女によるとこの大陸、レイダース大陸には確認できる限りでは4つの人種があるという。
それぞれ、人族・獣人族・
それぞれの人種は何かしらの特色があり、例えば獣人族は身体能力がとても高く、森人族は魔力が多く魔術が得意、土人族は身体が驚くほど頑丈で鍛治に精通している、などがあるがその中でも人族は最も数が多いだけで、一人一人の力は例外を除いて他の人種より低く、寿命も森人族・土人族の500年、獣人族の200年と比べて短い。
ただしそんな人族も利点はある。
それは、才能には左右されるが魔術と身体能力の両立ができること。
最初はどういうことなんだ?と思ってたけど、話を聞いていくうちにそれがだんだんと分かってきた。
獣人族は他種族に比べて圧倒的な身体能力を誇るが、その反面魔力は基本的にあまり多くなく魔術を苦手としていて、森人族は魔力こそ多いが、反面身体能力が低く接近戦は苦手としている、と言うデメリットが存在するのだ。
しかし、こと人族においてはその種族的制限がない。
基本的にはその分野では他種族に敵わないが、それを合わせたりすることによってその非力さを補っている。
場合によっては、他種族を上回る力を持つ人族もいるようで、そういった人達が多く存在しているのが、彼女らが所属している冒険者協会らしい。
───途中から少し話が逸れていたので、やんわりと話を戻してほしいと伝えると、セラは少し恥ずかしそうに頰を染めながらそれに答えた。
「えーと、つまり彼女は獣人族で、その中でも猫の要素を持つ猫人族って訳!ごめんね、長々話しちゃって…」
「ううん、すごく面白い話だったからいいよ!それにしても、猫人族か…」
「……他にも別の動物の要素を持った種族もいる。例えば、犬人族とか…」
「へぇ、そうなんだ!」
他にもいるんだ!──なんかさらに気になってきたな……!
と、ここで目的地に着いたようでアッシュが声をかけてきた。
目の前には少し古ぼけた、温かみのある宿があった。
看板には「宿屋風月」と書いてあり、その中からは絶えず明るい声が漏れ出ており、繁盛していそうだ。
「おっと、お話は一旦ストップだ。目的の場所に着いたからな。──ここが、オレ達が今拠点にしてる宿だ!」
「今日はもう依頼も受けないし用事もないから、あたし達の親睦を深めるためにも宿で一緒に話そ!」
「……今日の依頼の達成報告はどうする?」
「……あっ」
「………いいよ、僕が行っておく。先に部屋に入ってて。あと、受付さんに人数が増えることを伝えるの、忘れないで。」
「わぁってるよ!じゃあ、頼む。」
「……ああ。」
そう言い残し、リュートは去っていった。
おお〜やっと気が休まるなぁ。
……そういえば俺、もしかしなくても一文無しじゃない!?
服のポケットとかに入ってたり……ないかぁ。
これじゃ宿代払えないよ!どうしよう…
「ごめん、俺お金持ってないみたい………」
「え?そんなの分かってたよ。今までの『迷い子』もお金を持ってる人は少なかったし、持ってたとしても使えないものだったりしたらしいからキミもそうなんだろうなーって!」
「あ、そうなんだ。じゃあ…」
「……まさか金のこと気にしてんのか?そんなの気にすんなよ!オレ達はもう仲間だぜ?これから助け合いながら依頼こなしていくことになるんだし、一緒に金を稼げるからなんの問題もない。
「2人とも…ありがとう!」
「いいってことよ!ほら、早く入るぞ。」
「はーい」
そう言い宿に入っていく2人を追いかけ、温かな気持ちを抱きながら俺も宿の中へと足を進めた。
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どうも、所持金が尽きてしまったので初投稿です。
カードや課金に金使ってたら一瞬で消えました……
やはり旅人と開拓者兼任は厳しいか…?
……もうそろそろ受験も近いので投稿頻度が結構落ちてしまいますが、これからもこの作品をよろしくお願いします!
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