第2話 森林の外へ



 ……俺がみんなの仲間に加わりアッシュ・セラ・リュートの優しさを受けてたくさん泣いた後、アッシュの『この森林を出てすぐのとこにオレたちが今拠点にしてる街があるから、取り敢えずそこに向かおうぜ』という言葉のもと俺たちは空き地から離れ、森林内を歩いて街に向かい始めた。



 森の中は薄暗く少し霧のようなものもかかっており、少し不気味だがさらに奇妙なことにこの森、周りから殆ど音が聞こえないのだ。

 ……なんか幽霊でも出てきそうで怖いな。



「…なぁアッシュ、なんでこの森はこんなに静かなんだ?」


「お、なんだ?少し声が震えてるぜ。……怖くなったのか?ま、仕方ないな!ここってまあまあ暗いし。」


「い、いや、別にそんなこと……うん、少し怖いかも…」


「あはは!キミ結構怖がりなんだね、なんか可愛い!」


「……セラも前、墓地の魔境で怖がってた…」


「そういえば、そんなこともあったな。セラぁ〜、お前も十分怖がりだったじゃねえか!」


「ちょっ、それは言わないで〜!あたしの威厳が……」


「初対面がぐちゃぐちゃの泣き顔だったやつに威厳なんかある訳ないだろうよ…」


「……確かに」


「そ、そんなぁ〜!」


「ぷっ、あははははは!」



 リュートがぽろっとこぼした発言により、話の流れが彼女の恥ずかしい過去のものになってしまい、それを俺に聞かれてガックリとうなだれてしまうセラ。


 それを笑って見ているアッシュと、セラに対してはちょっと申し訳なさそうに、それでいて楽しそうに俺たちを眺めるリュート。


 そんな他愛もない話をしていると自然と笑いが込み上げてきた。

 ああ、楽しいなぁ…彼らが仲間になってくれて本当に良かったな。

 おっと、この森の静寂についての答えを聞かないと。



「あー笑った!…ところで、さっきの質問の答えはなんだったの?」


「くくっ・・・あ、そういえば質問の途中だったな。なんでこの森がこれほどまでに静かなのか、それはな・・・・・」


「はいはーい!それについてはあたしが答えるよ!・・・・ここが異常なまでに静かな理由、それはねこの魔境全体に漂う魔力の魔力性質が関係してるんだ。」


「魔力?魔力性質??」



 また知らない単語が出てきた。


 いや、俺がただ記憶喪失で忘れてるだけかもしれないんだけどね.....



「そっか、まずは魔力について説明しないとね!魔力はこの世界の全ての生物に宿っている不思議な力で、強い影響を受けると無機物でも魔力を帯びることがあるんだよ!それで、魔力性質っていうのは、その魔力に付加されている特殊な性質のこと。例えばこの森!・・・・ここら辺って少し霧がかってるでしょ?実はこの霧状のものがこの森が保有する魔力で、『消音』っていう魔力性質を持ってるんだ!ちなみにこの魔力性質だけど人間にも持ってる人がいるよ!少し珍しいけどね。」


「成程…だから殆ど物音がしないんだね。…でもそれって結構危なくないか?俺たちが音を立ててもそれが小さくなるからいいけど、もし敵が襲ってきた時には殆ど無音で近くまで忍び寄られるかもしれないよ?霧で視認性もあんまり良くないし……」



 急に後ろから襲いかかられでもしたら、普通に対応できないだろうな.....

 すると、俺の言葉を聞いたアッシュが感心したような顔をして、うんうんと頷く。



「おっ、いいところに気がついたな!……そうなんだよな、ここって殆ど最低ランクの魔物しか出ないしその数も少ないけどマジで危険なんだ。気づいたら至近距離に魔物が居たりするしな。よく新米冒険者が『なんで脅威度が低いのに俺たちは入れないんだ!』って言って受付に突っかかるんだが、そいつらにも君の言うことを聞かせてやりたいぜ…」


「まあ、そうならないためにも索敵を怠らないのが大切だねっ!」


「……そのために僕がいる…」


「ん?その言い方からして、リュートが索敵を担当しているんだな。…それにしてはそんなに周りを見渡してないよね、何かコツでもあるの?」



 そうリュートに問いかけたが、彼は首を横に振った。

 リュートは索敵をしていると言っていたが、俺が見た限りではたまに森の奥の方にに少し視線を向けるだけで、『索敵』にしてはあっさりとし過ぎている。

 だから何か良いコツがあるのかと思ったが、どうやら違うらしい。



「……僕はここにいる間、ずっと〔索敵魔術〕を使ってる。〔索敵魔術〕は、自分の魔力を空気中に放出して漂わせ、周囲の状況を正確に把握するための魔術。…結構、便利」


「へぇ〜、ここの森の魔力みたいな使い方なんだ………えっと、出来れば魔術について教えて欲しいな。」



 リュートがわざわざキョロキョロしなくても周囲の状況を把握できてる理由がわかった。


 なるほど、この森の霧みたいな感じで魔力を使うんだな。


 …今さっき出てきた『魔術』は予測すると、魔力を扱うために必要なものなのかな?



「おっと、大事なことを忘れてたな!もうすぐ『沈黙の森林』を抜けれるみたいだし、今から魔術について教えよう!」



 お、おお〜…魔術!なんかよくわかんないけど、ワクワクしてきた!



「っとその前に、まずはオレたちの職業ロールについて説明しないとな。1人目は……『ハイ!あたしがいい!』…ああ、わかったわかった。じゃ、自分で説明してくれ」



 話を遮られたアッシュは、苦笑いをしながらセラに任せる。


 そしてセラはえっへん、と言った感じに胸を張りながら喋り始めた。



「よしっ、まずはあたしから!あたしの職業ロールは『魔術師』!その名の通り、魔術を使って戦うんだ。一番得意なのは雷属性だよ!このパーティーの最大火力はあたし!」


「……じゃあ、次は僕。僕は『弓使い』、主にこの弓をつかって敵を射る。…索敵と、水属性魔術も一応使える。」


「そして、最後はオレだ!俺の職業ロールは『双剣使い』だな。だが火属性魔術と、回復魔術も少しできるぜ!……今までの話の中でなんか気づいたことがないか?」



 ……えっ、気づいたこと!?うーん、そうだなぁ…例えば…



「……みんなが魔法を使えるってこと?」


「おっ?正解だ。……まあ厳密に言うともう一つあるんだが、今はいいか。そう、オレらは全員何かしらの魔術を使うことができる!」


「それって結構すごいことなのか?」


「んー…別に凄くはないな。魔術ってのは魔力を使って術式を構築し、それを詠唱を通して具現化することを言うんだ。魔力を持つほとんどの奴が使えるが、その属性だったり威力だったりは人によって変わってくる……まあ、威力は訓練次第で伸ばすことはできるが。だから魔術が使えるってのはそう珍しいことじゃない。」


「でも、属性がおんなじだからって使う魔術が完全に一緒になるわけではないんだよ!」



 アッシュの言葉に付け足すようにセラが話す。

 え?属性が同じならできる魔術も同じなんじゃないのか?



「ちょっと前に魔力性質の話をしたでしょ?あれと似たような感じで、あたしたち一人一人の魔力には違いがあるの。たとえば、あたしの魔力は雷属性どの親和性が高くて雷属性の魔術ならあんまり魔力のロスがなく使えるんだけど、他の属性となると同じぐらいの威力を出すのにものすっごい量の魔力が必要になっちゃうんだ…」


「そうなんだ……あれ?でも、リュートは2種類の魔術を持ってるって言ってたよ?」



 使える属性が制限されているのなら、水属性を持つリュートはすっごい無理をして〔索敵魔術〕を使ってたんじゃないのか!?



「あ、〔索敵魔術〕のことを言ってんのか?あれは無属性魔術といってな、魔力との相性に関係なく使える便利な魔術だ。無属性魔術はその魔術の才能さえあれば使うことができるぜ!俺の〔回復魔術〕も同じだな。」


「お、俺でも使えたりするのか?」


「才能があれば、な」



 おお、そうなのか!

 俺はどんな魔術が使えるようになるんだろうか?


 凄く気になってきた!



「そうだね!見た感じキミにも魔力は……魔力、は…────うん?」



 ……ん?流れ変わってきたな…



「え、俺、魔力ないの?」


「う〜ん…ぱっと見はそうだったんだけど、んん??なんか変な感じ……」



 まさか、魔力の相性云々とかじゃなくて、普通に魔力不足で魔術が使えないのか....?



「……僕が見てみる…ん?これは────魔力総量は一応使える程度にはある、でもなんだろう…曖昧にしか分からないけど…魔力の流れが変?」


「そうだなあ、オレも見てはいるが……なんか魔力が濃い気がするな」


「それは…大丈夫なのか?」



 そう俺が聞くと、セラが可愛くうなりながら答えた。



「うむむ…こればっかりは使ってみないと分かんないかも」


「……そうだね。万が一暴発したりしたら危ないし」


「え、魔術って暴発したりするの?怖いな…」


「ああ、するな。術式の容量キャパシティを大幅に超過する魔力を流し込んだり、術式の制御が曖昧だったり、なんらかの要因で術式が失敗したりする時にたまに起こる。あれは怖いぞ〜」


「う、うんわかった。今使おうとするのはやめとこう!」


「よし、それでいい。街に着いたらそこの冒険者ギルドの訓練所で一緒に練習しようぜ!ここには魔術のエキスパートである魔術師様がいるんだからな!」


「えっへん!」


「……僕も水魔術の練習しよう」



 今すぐ魔術が使えるようにはならなかったが、街に着いたら教えてもらえるみたいだ。


 やった、楽しみなことが増えた!


 街に着くのが待ち遠しくなりワクワクしてきたところで、先頭を歩くアッシュが正面を指差し告げる。



「さて、ここが『沈黙の森林』と外の境界線だ」


「ふぅ〜、やっと出られるんだね!この薄暗いのともおさらばだー!」


「……セラ、走っちゃダメ。危ない」


「ほら、落ち着けって!先輩冒険者の威厳、見せるんじゃなかったのか?」


「むぅ〜っ!あんたたちが無くしたんでしょ!」


「ま、まあまあ…」



 話を掘り返され、ご立腹の魔術師様を宥めながら『沈黙の森林』を抜ける。


 すると『消音』の魔力がなくなったのか、木々のざわめき、鳥の囀り、俺たちが歩く時に鳴る足音など様々な音が聞こえてくるようになった。


 なんというか、すっごい清々しい気分だ!



「ようし!ようやっとあの森も抜けたし、早速俺たちの魔術を見せようか!……まぁ、オレの火魔術はその名の通り火を使うから、ここの林では派手なやつは打てないんだけどな。

 木、燃えるし」


「……多少の火なら僕の水魔術で消せるけど、火事になったら大変」


「………ま、少しぐらいなら大丈夫だ!しかもオレの術式はどちらかと言うと相手を錯乱させるようなものが多いしな。」

「そ、そうなんだ…例えばどんな感じのものがあるんだ?」

「そうだなぁ────ん?」

「……アッシュ、きた。数は3、おそらく小鬼ゴブリン



 そうアッシュに聞いた時、前方の草むらの辺りからガサガサという草が擦れる音と何かの唸り声が聞こえてくる。


 な、なんだ?どんな奴が来るんだ?



「お、ちょうどいいな。そいつらでオレたちの戦う姿でも見てもらうとするか!・・・・そういえば君、何も武器を持ってないな。オレの予備の剣を持っててくれ。サイズ的には大丈夫なはずだ」


「うん、わかった!……あれ、意外と軽いな」


「うん、準備万端だね!よーっし、張り切っていくよー!」


「……周囲に影響が出ないようにね」




 こうして、俺がこの地に来て初めての戦闘が始まろうとしていた。

























 ─────────────────────────────────────────


 はい、後書きです。

 テスト期間にも関わらず、懲りずに初投稿です。

 なんか段々と文が多くなっていってる気がするんですよねぇ....

 皆さん的にはどちらがいいんでしょうか?長い話と小分けにされた話。

 ....まあ、自分的にはたくさん書いて一気に放出!って感じがして嫌いではないんですが、皆さんがそうとは限らないですもんね。

 どっちがいい!とか言うのがあれば、ぜひコメントで教えてください!あ、別に感想とかも書いてもいいんですよ…?(露骨なコメント稼ぎ)

 面白かった!と思ったらレビューと評価もよろしくお願いします!

 それではまた〜








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