第1章
第1話 覚醒と邂逅
──────い
────────い!
(…う、ん……なんだ?)
───────────う─か?
(誰かが、呼んでるのか?)
ぼんやりとその声を聞いていると、ふいに身体を揺さぶられ、意識が浮上する。
「お、やっと起きたか!」
目を開き、真っ先に視界に飛び込んできたのは人懐っこそうな顔をした茶髪の青年だった。
その青年は俺が体を起こしたのを確認すると安心したかのように、にぱっと笑った
「いやぁ、よかった!君、ここの空き地に1人で寝っ転がってたんだぞ?何回か声掛けながら揺すったけどなかなか起きなかったから、もうダメかと思ったぞ…」
「…え、そうだったんですか?お、起こしてくれてありがとうございます」
「良いってことよ!というか、敬語なんて使わなくてもいいぜ。堅っ苦しいのは苦手だしな!」
「あ、わかり…、いや、分かったよ」
どうやら思っていたより深い眠りだったらしい。
何度も揺すられていたのに起きれなかったとはね…
起こしてくれたのがこの優しそうな青年でよかった……
青年との会話もひと段落ついたところで、ふと気になったので周りを見渡してみる。
今まで俺が横たわっていたここは、彼が言うように丈の短い草が生えているだけの空き地みたいだ。
その周りは黒ずんだ幹を持つ背の高い木々に囲まれており、森の中は全体的に薄暗い。
しかし、この空き地には暖かな日の光がこぼれ落ち、心地よい雰囲気だ。
昼寝でもしたくなるな!…今さっきまで寝てたけど。
…それはさておき、気づけば寝ていたこの場所は、どこなんだろう?
「えっと、ちなみにここはどこなんだ?」
「ん?ここは沈黙の森林っつう魔境の1つだ!って、なんでこの森の名前なんて聞いたんだ?おおかた、冒険者協会からなんかの依頼でも受けてここに来たんだろ?なら知ってて当然のはずなんだが…」
「い、いや普通に知らないんだけど…」
沈黙の森林……ね。聞いたこともない地名だなぁ
きっと俺の故郷からも遠く離れてるに違いない。
……いや待って、それよりもヤバそうな単語が聞こえたな!
「ま、魔境?なんだか随分と物騒な響きだね…」
「まぁ、実際物騒だからな。ここは比較的安全な方ではあるが、それでも低級の魔物ぐらいはいるしな。……まさかこんなことも知らなかったのか?」
「…うん、知らなかった」
「……え、マジ?」
「うん、マジ」
「……マジなのかぁ」
どうやらこれもこの青年にとっては、というかここでは当たり前に存在する単語のようだ。
……え、どうしよう。
このままだと俺は比較的安全ではあるものの、魔物?とやらが出てくる危険地帯に無許可で入り込み、堂々と昼寝する不審者扱いされてしまう!
森に入った覚えなんかないのに!
そう俺が内心で焦っていると彼は急に考え込み始めた。
何かをぶつぶつと呟いており、それが少し聞こえてくる。
「──彼は、本当に───いや、まさか───でも──」
俺は少し心配になった(俺という不審者の処遇を決めていると思った)ので、1人自分の世界に入っている彼に話しかけた。
「……えーっと、だ、大丈夫?」
「──ま、聞いてみれば解るか───ん、大丈夫だぜ。早速で悪いが、何個かオレの質問に答えてくれるか?」
「ぇ…?俺、捕まっちゃうの……?」
「いやいやいや、そんなことしないって!まだお互い分かんねぇことが多すぎるんだ。まあ自己紹介みたいなもんだと思ってくれ!」
「な、なんだ。そういう感じね!分かった」
突然の質疑応答をするという発言に(逮捕される!)と怯える俺に、彼はおどけたような口調で話す。
「オレの名前はアシュレイ、最近ランクアップしたBランク冒険者だ!よろしくな!」
「(冒険者?)うん、よろしく!アシュレイ君」
「水臭いなぁ、アッシュでいいぜ!で、君は?」
「あぁ、俺は───────ぇ?」
…………あれ?俺って…なんて、名前だったっけ??
「おっ俺の、名前…は………」
「───やっぱり、か。思い出せないんだろ?」
「え?なんで…」
…なんで、思い出せないって、分かってたんだ?
「名前だけじゃねぇ。ほら、君の住んでた場所は?故郷は?家族は何人いる?家族の名前はどうだ?」
「ぁ……ぇ?わ、わからないっ……思い出せないよ‼︎」
どうして、どうしてどうしてどうしてっ!?なんで出てこないんだ!!?
そんな大事なことを、なんで忘れてるんだ!?
「─そう、だろうな。君はやはり『精霊の迷い人』みたいだ」
「精霊の……迷い人…?」
「ああ。主に魔力の流れがある魔境や秘境に現れる、らしい、出自不明の人のことを言う。こんなことは滅多にないが、すでに前例がある現象だ。本当に何もないところから人が現れることから、気まぐれにいたずらを起こす精霊や妖精が導いた存在として、そんな名前がつけられたそうだ」
「そんな、ことが……」
俺は、そんな不可解な存在だったのか……
でも、なんで俺なんかが精霊?のいたずらに引っかかるんだ?
故郷が、家族があるとして、俺はどうやったら再びそれを思い出せる?
分からないことだらけだ…
俺が混乱している間に彼の話はまだまだ続く。
「そんな分からないことだらけの『精霊の迷い人』だが、これまで現れた迷い子にはある共通点がある。それは───今までの記憶を全て無くしていることだ。……君のようにな」
俺の周りをくるくると歩き回りながら彼は続ける
「もちろん、普通に意思疎通もできるし歩き方や喋り方、食器の持ち方なんかの生きていく上で必要なことは忘れていない。今、俺と会話できているのが何よりの証拠だろ?…まあ、食器云々については分からないけどな。」
「…お、俺は……一体どうすれば記憶を、過去を取り戻せる?」
……嫌だ。このまま何も覚えていないまま日々を過ごすなんて…!
俺は……俺はッ──────────────
護らなきゃ!!!
記憶がない今、俺がなにを護らなければならなかったのかなんて覚えてない。
それは家族だったかもしれない。故郷や国、はたまた世界だったのかもしれない。
でも……でも!俺の中の何かが、『このままでは駄目だ!護れ!大切なものを、何が何でも護るんだッ!』って強く強く訴え掛けて来る!
これが本当に俺の意志なのかは分からない…
もしかしたらどこかの悪い奴に操られているかもしれない……
…だけど
「このまま何も知らずに生きていったら……」
「俺は一生……」
「『後悔』すると、思うんだ」
俺の搾り出すような言葉を、真剣な顔で聞いていたアッシュは一度目を閉じた後に、何かを決意したような顔で口を開いた。
「これまでの『迷い子』は全員が全員、己の記憶を取り戻そうと奔走したわけじゃない。むしろ、そんな奴はとても珍しかった。」
「誰だって、記憶がない状態で見知らぬ場所に飛ばされれば心配にもなるし、恐怖も覚える。それは当たり前のことだ。きっと俺だってそうだろう。」
「それでも君は、前に進むんだな?」
その問いに対する答え?決まっている。
「ああ!俺は諦めない。このまま何も知らずに終わるなんて、そんなの絶対に嫌だ!!!」
「…………そうか」
そう、短く呟くとアッシュは軽く俯いた。
前髪で顔が隠れ、表情が見えなくなる。
自分の心の声を吐き出して、少し疲れた俺は若干息切れしながら彼を見つめる。
すると俯いていた彼の肩が震え始め……
急にバッと顔を上げた!
「うおぉぉぉおおん!!よく言った!亡くなった記憶を元通りにするのは想像を絶するほど大変な道になるかもしれない。でも、君はその上でその道を選んだ!」
こちらを向いたアッシュの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
俺の言葉と決意に感動してくれたのだろう。そんな彼の姿を見て少し、いや、かなり驚いたがこれで俺ははっきりと理解した。
彼は───アシュレイは、人を思って涙を流せる優しい人物だと言うことを。
一通り叫び、服の裾で涙を拭ったアッシュは泣き腫らした目にまたもや決意を抱き、俺に問いかけてきた。
「記憶を取り戻したいんだろ?なら……オレ、いや…オレたちの仲間にならないか?」
「え?『オレたち』?今ここにいるのは、俺とアッシュの2人だけじゃ…」
「……黙っててごめんな。実はオレたち、3人パーティーなんだ。……おーい、どうせすぐそこに居んだろ!出てこいよ!」
ん?3人だって?
そう訝しんでいると、なんと本当にアッシュの斜め後ろにある木の後ろから2人の男女が出てきた!
真っ先に飛び出してきた女性───いや、少女の方は金髪のショートカットでアメジストのような綺麗な瞳をしているいかにも元気溌剌そうな可愛らしい子だ....今は涙でぐちゃぐちゃだが。
一方少し遅れて出てきた青年の方は、少し長めの闇夜のような黒髪に少し細められた青い瞳のクールそうな印象を受ける。どっちも可愛いし、かっこいいな...
「.....って、ちょっと待って!え!?最初からいたの!?」
「う"ん"!キミの言葉も最初から最後まで聞いてたよ"・・・・!うう・・・グスッ・・・・キミなら"仲間に大歓迎だよ!!一緒に頑張ろうね"!!!」
「・・・・はぁ、セラ、顔がぐちゃぐちゃ。はい、ハンカチ。これで拭いて」
「『涙で』って言って"!でもあ"りがとう"・・・・!」
出てきた青年はハンカチを泣きじゃくる少女──セラに渡した後こちらに向き直り、感情の乏しい表情にうっすらとだが優しげな笑みを浮かべた。
「・・・・初めまして、だね。僕はリュート。こっちの泣いてるのはセラ。「よ"ろし"く!」・・・・僕もずっとキミを見てた。キミの決意も、ここに届いた。これから、一緒に頑張ろう。」
そう言って彼は胸の中心辺りに手を当てる。
3人の反応を見て、俺は今までにないほど心が暖かく感じた。
俺の精一杯の決意にこれほどまでに共感して、あろうことか一緒に俺の記憶を思い起こすための手伝いまでしてくれると言う。
ここまでの親しみに溢れた優しい人が一体どれほどいるだろうか。
そんなことを思っていると、ふと俺の頬に伝うものを感じた。
ああ、これは.......
「わわっ!キミまで泣いちゃうなんて!」
「そりゃそうだろうよ、彼はここに来てからずっとこの訳のわからない状況の中、不安を押し殺してたんだ。きっと安心したんだろ。今は泣いていいぜ・・・・っ。俺たちはもう仲間なんだからな"っ!!」
「アッシュの言うとおり。僕たちは、仲間。いくらでも、頼って。」
「ああっ・・・・・・・・ありがとう・・・・ありがとう、みんな"ぁっ!!!」
この後もみんなと共に──新しい大切な仲間と共に泣いた。
───この日のことを俺は一生忘れることはないだろう。
─────────────────────────────────────────
はい、どうも。シユウです。
本当は更新頻度がもう少し遅くなる予定だったのですが、この作品を見た友人からとても温かい声援をいただいて、心がとても暖かくなったので、初投稿です。
いまはまだ、数人の方しか見ていただいておりませんが、それでもこの拙作を読んでくれたことに最大限の感謝を!これからも頑張って書いていくので、出来ればで良いので評価の程、よろしくお願いします!それではまた!
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