10:ブルーローズアプローズ~オカン系部下は蒼薔薇の魔術姫に振り回されたい……わけではないっ!~ [暴力描写あり]
「ここにな、新しい魔道具が二つある!
一つは『微弱な魔力でも察知してどんなに隠れている人でも見つけ出す魔道具』だっ!
もう一つは『魔力を隠して人から見つからなくなる魔道具』!
今からこっちの見つけ出す魔道具をキミに貸してやろう! そしてボクはこっちの見つからなくなる魔道具を着ける!
さぁ! 隠れん坊の始まりだ! 捕まえてご覧なさーい!!」
「……はぁ」
一方的に、しかも情報量の多い台詞を残して、高らかに笑いながら走り去っていく小柄な少女を思わず呆然と見送ってしまっても……許されるんじゃなかろうか。
手元に残された手のひらサイズの魔道具の冷えた感触が、少しだけ俺の理性を引き戻した瞬間。
「て、あのバカ上司! 今日は書類仕事するって伝えてあっただろうが!!」
周りの目を気にすることなく、俺は叫んでいた。
***
「はぁ……どうすんだこれ……」
掌で上司である少女が置いていった魔道具を転がしながら、深いため息を吐く。
自信満々の上司が置いていった『見つけ出す魔道具』は、確かに魔術研究所の庭に潜んでいたなかなかな魔力持ちの他国からの間者を見つけ出したし、なんなら訓練をサボって隠れていた魔力が少ないながらもその武力で上り詰めたと言われている騎士団長まで見つけてしまった。だからこれは素晴らしい魔道具なんだろう。
……だが、肝心の上司が見つからない。見つけられない。
史上最年少で魔術師になり、史上最年少で魔術研究所の魔道具部門長に昇りつめた稀代の魔術師。サファイアのような蒼い目が印象的な少女。俺の上司でもあるローザ・シエル。またの名を『蒼薔薇の魔術姫』なんて大層なあだ名を持つ彼女に常日頃から振り回される俺の不名誉なあだ名は……。
そこまで考えていると、手元の魔道具がピリリと震えた。
そして現れたのは……。
「……おやぁ、誰かと思えば魔道具部門の
厭味ったらしい台詞を吐きながら現れたのは、つい最近不祥事を起こした元魔術部門長の部下だった魔術師の男だった。
「……いえ、少し人探しを」
手元の魔道具が警戒を告げる中、用心深く相手の様子を探る。
「あぁ、小さな女王様をお探しでぇ。……ちっ! あんの生意気なチビの作った魔道具のせいでわが師が失職など……っ! 何故だっ!!」
なぁ! 貴様もそう思わないか!? といきなり激高してきた相手に思わず呆れの籠った一瞥を投げてしまう。ていうか何言ってんだコイツ?
「貴殿の師でもある元魔術部門長が失職したのは、本来管理されるべき透過の魔術陣を、覗きが趣味の連中に売りさばいてたからでは?」
こんの下衆がと心の中でだけ付け足す。そもそもその罪が暴かれる切っ掛けとなったのも、その魔術陣を購入した下衆がウチの上司を覗こうとしたからだ。……ウチの上司に魔術を使おうとするとはなかなか命知らずな奴もいたものだ。
「っ?! たったそれ如きで?! 何故! 何故我々まで?!」
「お前達も知ってて放置していた……いや、手を貸していたんだったか……この下衆野郎」
「黙れっ!」
おいおいと心の中で独り言ちる。奴の手元にはここら一体を焼き尽くしそうな炎の魔術。後のない人間は短気でいかんな…とか思っているうちに、俺の眼前に炎が迫る……も。
「なっ?!」
上司に持たされていた防御用の魔道具が発動し、俺の目の前にはキラキラと煌めく蒼い薔薇が咲いていて、俺を完全に炎から守っていた。ウチの上司の瞳そっくりの、引き込まれそうに蒼く澄んだ色の薔薇が、散っていく炎の片鱗を受けて美しく輝く。
ついでに……。
「のっ?! ぐげっ!」
蒼薔薇から伸びた蔓があっという間に魔術師を拘束して何処へかと引き摺っていった。
「……この魔道具……失敗作ですね」
男を見送った後、ポツリと零せば、背後の茂みががさりと揺れた。
「どこがっ?! ボクの作った防御の魔道具は完璧にキミを守ったろう?!」
頭に葉っぱを付けて、蒼い目を輝かせた上司が近づいてくる。
「……いや、そっちじゃなくてですね。貴女がお持ちの方ですよ」
興奮気味の彼女に気づかれないように、そっと距離を詰めていく。手を伸ばせは届くほどに。
「どこが?! ちゃんと魔力を隠せているだろう?!」
「……いえ? 先程貴女がヤツに向けた殺気混じりの魔力、全然隠れていなかったですよ?」
先程俺に炎が向けられた途端、背後で膨れ上がった恐ろしいまでの魔力。
その持ち主が、今目の前で地団駄を踏んでいる小柄な少女だと、いつまでたっても信じられない。
だけど……。
「ふぎゃっ!? 何故キミはボクの首根っこを掴むんだい?!」
「逃がさない為ですよ。このバカ上司! 今日は書類仕事だって言ったでしょう!」
「いやぁ!! 書類仕事きらぃぃぃ!!」
そう叫ぶ、ちょっとおバカで、膨大な魔力と魔術の腕とついでに魔道具開発の才を持つ上司を小脇に抱え、俺は足早に執務室へと向かうのだった。
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